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ジキルとハイド

仕事で緊急電話を持っていたときのこと。

過去最高の50回以上の鬼電があった。

80歳代のポヨさん(仮名)女性から。

ポヨさんは、緊急電話の常連中の常連。

「えーっと、
あのヨドバシの手に乗るくらいの
ほらあれよ、何だった?」

みたいな暮らしのカスタマーサービス的な
電話も多い。
因みに上記の正解は
ヨドバシカメラのポイントカードのこと。

ポヨさんには時間という概念があまりないので
昼夜問わずかかってくる。

そして夜中に起こしておいて
自分の要件が済むとガチャ切り(笑)
話の途中でもお構いなく切る!
このガチャ切りが常なので
ガチャ切りしないと気になるくらい。
あれ?ガチャ切りは?
ガチャ切りちょうだい!となる。

・・・・・

あの日の始まりは20時だった。
なんらかのスッチが入ったようで
コールが鳴り止まない。

ポヨさんは長年、精神疾患を患っている。

この日はワン切りも10回くらいあった。

段々言葉が乱暴になっていった。

一緒に住んでいた家族が家を出たので
寂しくてたまらないということもあった。
ただ、ご家族と同居の時から
寂しくてたまらない感じはあった。
常に心が満たされていない感じで
誰かの悪口をずっと言っている。
世の中の全てを敵に回している感じだった。
うちの営業所は受け持ち制ではないのだけど
この方だけはほぼ受け持ち制で
一人の看護師が担当していた。
その看護師が数週間休みになり
不安定にもなっていた。

私は緊急訪問で度々訪問していた。
緊急電話でも度々話すことがあった。

だから夜は私につながると思っているようだ。

この日も
「パンツがないから探して」という電話や・・・。

パンツが探せるのはちゃんと知っている。
場所をお伝えしても
「そんなこと言ってもわからないわよ、早くきて」
「早く来いよ」と口調がだんだん変化していく。

しまいには
「おい、にゃむ!!」と呼び捨て(笑)

だんだん語彙が強くなるポヨさんに
「いつも優しいのになんで今日は
そんな怖い言葉を遣っているんですかぁ?」というと

「わかんないの?ジキルとハイドよ」
と言われた。
わかんねーわ。

きて欲しくてたまらない様子で
ポヨさんは次なる手段に出た。
作戦を変更したのがわかった。

「熱が38.7℃もあるのよ。
あー寒気がする、早くきて。
寒い寒い、早く来いよ!!」

医療的な内容を言われて
そのまま放置するわけにはいかないことを
よくご存知だ。

<もう一回熱を測ってみてください>というと
聞くたびに数値がめちゃくちゃ。

きっと熱はないのだろうなぁとわかる。

それでも行かないわけにはいかない。

時計を見ると23時すぎ。

今から家を出てポヨさんちに到着するのは
営業所に寄り着替えてカルテや商売道具を持ち
出かけると1時間近くかかる。

それでもいいから早くきてと
到着までにも何度も電話が入る。

*    * 

このご時世、熱があると言われたら
このくそ暑い日であろうと
防護服一式で訪問しなければならない。
宇宙服ばりの完全防備で入室。

寒気がしているはずのポヨさんは
薄着でいつものようにゴロゴロ。
普通に元気そう。

クーラーも扇風機もつけて涼しげ。

そして私の格好を見て
笑い始める。

「何よ、その馬鹿な格好は!」

「ポヨさんにお熱があると聞いたから
この格好で来ました、
まずはお熱を測りましょう」と言った。

「いやよ、熱なんてないから測らないわ。
馬鹿じゃないの」と嘲笑。

熱を測ると体温計を投げ捨てる。
ようやく測れた体温は36.6℃。

立場が悪くなったポヨさんは
「もう帰れ、早く帰れ!
熱が出てるなんて嘘よ。
そんなこともわからないの?」と高笑いした。
いやいや、わかってたで〜。

1時間近くかけて到着したが15分の訪問。
それでも15分訪問しましたという
サインをもらわなくてはいけない。

それを
ポヨさんは断固拒否した。
「印鑑なんか押さないでよ!もったいない。
とっとと帰りなさいよ」と言った。

とほほな感じだが
帰ろうとすると
「また、何回も電話するからね」と捨て台詞。
いやいや、もう今晩は、ご馳走様やし(笑)

「いやいや、もう寝る時間だから
電話せずに寝ましょう。私も寝ますよ」というと
「寝なくていいじゃない。起きておきなさいよ」という。

結構なことを言われているが
相手は精神的な病を持っている人だと
わかっているので
そこはそれほどなんとも思っていないけど
ただただ鬼電と夜間の訪問には疲労感があった。

*    * 

でもポヨさんは
朝の7時前まで眠ってくれなかった。

0時からも1時間に1〜2回のペースで
電話が入る。
時には留守番電話に
呪いのメッセージが入っている。
怖っ。

*    * 

あれから
ポヨさんは時々夜に電話をかけてくる。

私が電話を持っていると思い
かけてきているようだった。

「にゃむさんに悪いことしちゃった」と反省モード。

電話をとってくれた人に
「大丈夫よ。怒ってないですよ。
ポヨさん大好きなままよ」と言っておいてと
伝言をお願いした。

そしてまた数日前に緊急電話を持っている時に
電話がかかってきた。

私が名乗る前に
「にゃむさん?この前は本当にごめんなさい。
私、すごく不良みたいなことをしてしまったわ。
いや、不良より悪かった。本当に酷いことをしてしまって
ごめんなさいね。
にゃむさんが大好きなのに大好きな人に
あんなことしてしまって許してくれる?」

かつてない優しいポヨさんだった。
本当に懺悔されている感じだった。

「ポヨさんが寂しくてきてほしかったことは
ちゃんとわかっていますよ。
ポヨさんのことは大好きだから
安心してくださいね。
こんなふうにお電話してきてくれたことが
とっても嬉しいです」と話した。

そうすると
いつものガチャ切りではなく
普通の人が電話を切るように
静かに電話を切られた。
(あ。。。こんなふうにも
電話を切ることができるのね)

ずっとこの数週間
気にされていたのだろうなぁ。

こうやって
私たちの職業は
目に見えない報酬をもらっている。

*    * 

私は精神疾患の看護はあまり経験がないのだけど
精神疾患であろうとなかろうと
きっと人の心の中には
ジキルとハイドが棲んでいるのだろうなぁと
思う。

その人によって
見た目に写っているのが
ジキルだったり
ハイドだったりしているのだろうと思う。

私の中にも両方が棲んでいる。

最近、易(風水)を学んでいて
陰陽のことを知る中で
タオマークにもあるように

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フリーハンドの雑なタオマーク(笑)

陰が極まって陽になり
陽が極まって陰になる

そして
あのタオマークの中には
陰の中にある陽も
陽の中にある陰も
表現されている。

陽がよくて
陰がが悪いということもなく

調和していくことが
私たちの人生の課題なのだろうなぁと思う。

何十年も生きていると
生き方の癖が思い切りついている。

あまりにその癖と一緒にいすぎて
それが癖だとも気がつかなくなっている。

ポヨさんもどちらかに偏ってしまうことで
バランスを欠き苦しんでいる。

一生懸命反対側にもいって
バランスを取ろうとしている。

偏りすぎている時は
自分でも苦しいのだと思う。

これはポヨさんだけではなく
きっと多かれ少なかれ
誰もが経験していることなのだと思う。


50回以上の鬼電を受け
朝まで眠れない1日ではあったけど

ポヨさんが反対側に歩み寄ってきてくれたことで
ほっこりとした。

とはいえ
もう鬼電は勘弁!



ありがとうございます😭あなたがサポートしてくれた喜びを私もまたどなたかにお裾分けをさせて頂きます💕