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納豆の食べかた…父の流儀

 実家に里帰りしたとき、納豆を持っていったことがありました。そのころの私がとても美味しいと思っていた納豆でした。その納豆にまつわる思い出です。

 朝食にさっそく私のおみやげの納豆を食べることになり、私は器に納豆をあけて添付されていたタレとカラシを入れて混ぜました。どうぞと納豆を差し出すと、父がご飯に納豆をかけてひと口食べました。

 すると父の表情がみるみる変わり、
「納豆に何を入れた!」
と大声で怒鳴られました。

「朝ご飯は食べない」
と父は箸を置き食卓を離れました。

 いつもは穏やかな人なので、この剣幕には縮み上がりました。母もじっと黙っていました。

 実家の納豆の食べかたは、納豆に味の素をふりかけぐるぐるかきまわし、醤油をたらしてさらにかきまわしてご飯にかけます。

 この味は父にとって譲れない味だったとようやくわかりました。

 しばらくすると父はふだんの父に戻っていました。納豆のことも何も言いませんでした。

 このとき学んだことは、自分が美味しいと思うものが必ずしも他のみんなが美味しいと思うものではない、ということです。

 このときのことを思い出すたびに、私の背筋は縮み上がります。

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