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朝焼けにほどける背中

 私の吐いた息が、朝焼けに白くほどけたとき、あの気高い人が最期に吐いた一息も、こんな風だったのかと思う。

 夜の抜けきらない灰色の雲を、朱い金色に染めていく太陽はまだ黒い山の向こう。

 朝焼けはきれいだ。
 しんとしていて、悲しくてきれいだ。
 きれいすぎて、あの気高い人の命が散る様すら、きれいになってしまうのが悔しい。
 生き様も、生い立ちも、胸に抱えた重たい心も、「きれい」で終わらせることのできる人ではなかった。何もかも燃やし尽くした心の虚ろに、守るべき言葉と叶わない憧れを抱き続けていた。あの人は立ち止まるわけにはいかなかった。その後には、必ず守りきらねばならぬ尊い未来があった。

 未来が、あの高潔な命より重かったのだろうか。
 大切な人の命を零した未来は、軽過ぎはしないか。
 つめたい、かなしい朝日がのぼって、そして重みのない虚ろな昼が来る。

 空はずっとこのまま、朝日に焼かれ続けたらいい。
 思い出せない声が増えるより、私はずっと朝焼けの中で涙を流し続けていたいよ。遠すぎる背中を偲びながら。
 

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