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小説『アンチバーチャルリアリティ』#7

 メンバーがその場でフードとマスクを取り払う。みな、思っていたよりも若い顔をしていた。
「じゃあ、年齢順にいこうかな」
 一人目、ソテツ。猫背の男で、先程少年を運んで行った人物だ。最年長。
 二人目、ツユ。長い黒髪が印象的な、背の高い女性だ。子供好きらしく非常に好意的だった。
 三人目、アザミ。怒りっぽい娘。スラッと引き締まった脚が運動神経の良さを伺わせる。
 四人目、カズラ。これまで一度も発言していない。小柄な、最年少の少年だ。長く伸びた前髪が目元を隠してしまっている。
 最後に、シバ。
「俺はシバ。このチームのリーダーだ」
「もう、ウチが紹介しようと思ってたのに。シバとウチはね、幼馴染なの!」
 ハイビのシバへの態度がなんとなく甘えた雰囲気であることに合点がいった。おそらく、シバが兄のような存在なのだ。
「俺たち『カレクサ団』にようこそ、チャイ子」
 彼はところどころ傷の跡が残る手を差し出した。私もそれに応じ、晴れて団員の一人となった。

✻✻✻

「そもそも、この団の目的は……何なんですか?」
 あのあとビルの地下に移動した私たちは、簡単な食事を摂っていた。フロアの一角に保存のきく食糧を蓄えているらしい。
「それ話すとちょっと長くなるんだよね〜」
 ハイビは乾パンを頬張った。
「めっちゃザックリ言うと、助けたい人がいるの」
「助けたい人?」
「お前、V派については記憶がないんだっけ?」
 そう問いかけてきたのはソテツだ。サングラスの奥に光る瞳が、私を探っているのを感じた。
「……今のところは」
「そうか。じゃあ、あの女科学者のことも知らないんだな」
 私は首を横に振った。
「バーチャルリアリティだなんだって騒いでいるが、いまのあの空間を成立させたのはある一人の女科学者なのさ。そいつを助け出すのが、現時点での大目的ってところだな」
「その女性はバーチャルリアリティを作った……のに『助け出す』んですか?V派の中心人物のように思えますが」
「バーチャルリアリティっていうのは、元々はこんな争いの種ではなくてもっと平和的な、例えば医療目的に使用できるような技術を目指していた」
 ソテツは手に持っていたフォークを掲げた。
「このフォークだって、やろうと思えば凶器になるだろう?……要するに、道具は使う人間によって何にでもなり得るんだ。作った本人の意思に関わらずな」
「まどろっこしい言い方。おじさんだって嫌われちゃうわよ」
 アザミが呆れたように言った。
「その女性にとって、今の状況は望ましいものじゃないのよ。でもV派がそんな腕の立つ科学者を手放すわけない。それで、自然派の立場や諸々の個人の感情を鑑みて……助け出そうってことになったの」
「なるほど。ちなみに、その諸々の個人の感情と言うのは」
「アンタ、なかなか神経太いわね。遠慮なく質問してくるじゃないの」
 アザミが眉根を寄せる。ツユが慌ててフォローした。
「そこはまだ今は話せないかな。追々、ゆっくりお話していくわね」
 アザミはツンと顔を背けた。こんな態度ではあるものの、わざわざ分かりやすく説明しなおそうとしてくれたところを見ると根は悪い子ではないのだろう。

 すっかり食事を平らげたハイビが立ち上がった。
「さて、そろそろ会議しようか!」
 みなゾロゾロと片付けを始める。ハイビは私の方を振り返った。
「チャイ子ちゃんにはまだちょっと話せない部分があるから……あの男の子にご飯を持っていく仕事をお願いしてもいい?」
「もちろん。助手だからな」
 ハイビは申し訳なさそうだが、加入したばかりの新人に全てを話してしまうような集団であるほうがずっと不安だ。
 いくらかの食料品を抱えて、私はその場を離れた。

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