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来日して一番印象に残ったことは何?#37

こんにちは。

私が来日してかれこれ15年になります。

来日当初は”北朝鮮の話をしてほしい”という依頼が多かったのですが、当時は『変なことを言ったら北朝鮮のスパイに拉致されるのではないか』と思い、怖くて話す気になれずに依頼を断っていました。

時は流れ、来日して約5年くらい経った頃でしょうか。脱北当時の恐怖からくる悪夢やPTSD的な症状が落ち着いてきた印象があります。
これは後から考えてみて気づいたことなのですが、3年目くらいから人前で少しずつ自分のルーツやヒストリーを話すようになったことが影響しているのではないかと感じています。

看護学における理論として、フィンクの危機モデルというものがあります。
その理論において人間は、(例えば脊髄損傷による半身マヒなど)とてつもない衝撃を受ける出来事が発生すると、その出来事を受容するまでに「衝撃→防御的退行→承認→適応」の4段階のプロセスをたどるとされています。

(もしかするとキューブラロスの”死の受容プロセス”のほうが馴染みがあるという人がいるかもしれません)

上記に当てはめて考えると、来日直後の私はおそらく「防御的退行」状態だったのではないかと分析しています。自分を守るために必死だったのでしょう。

その後、時間はかかったものの、人前で過去を話すようになったのは、周囲の人々の働きかけが大きかったように思います。難民や難民に等しい人を支援する団体の方は”なぜ脱北者の口から北朝鮮の現状を伝える必要があるのか”について何度も説明してくれました。

そういった経緯で、人前で自分の過去や北朝鮮での生活などを話すようになりました。すると、不思議なことに毎夜のように悩まされていた悪夢を見る回数は減っていき、深く眠れるようになったのです。

また、話を聞いてくれた方々の感想を聞いて、北朝鮮に住んでいた私がその中で見聞きしたことを伝える必要性があると実感することができました。

北朝鮮は独裁国家で、国民を暴力や相互監視で服従させ、搾取して飢えさせる人権侵害の甚だしい国だ。サイバーテロや核ミサイルの発射実験を度々行い国際秩序を乱している。

こういった北朝鮮の現状を否定する人はあまりいないと思います。しかし、自分事として想いを馳せたり、小さくても何か行動を起こしたりしてくれる人は多くはありません。

目の前で起こっていることではないから、どうしても現実味が湧かない。これは仕方のないことです。

そこの壁を越えるために必要なのが、”当事者の語り”のようです。
私の拙い話に耳を傾けてくださった方々はそう教えてくれました。

考えてみると、今こうして私がnoteに北朝鮮のことを書き続けているルーツは、そういった経験にあるのかもしれません。

その後に始まる看護学校の地獄のような日々、就職してからは病院の仕事で忙しく、取材などを受けることが難しい状態が続きます。
(看護学校に通っていた時に某地上波番組でドキュメンタリーを取りたいという提案もありましたが断りました)
当然のごとくそういった依頼は来なくなっていきました。

それが先日、何年ぶりでしょうか?
「あなたのお話を聞かせてください」と声がかかったのです。
難民に日本語を教える活動をしている団体が主催する、新人ボランティア向け研修で「難民もしくは難民に等しい人に直接会って、彼らの話を聞いてみよう」という趣旨のものでした。

最近は子育てにどっぷり浸かっていたのもあり、自分のストーリーを忘れかけていましたが、私は”こういう人間”だったのだと、改めて認識する機会になりました。

その研修の質疑応答で「(日本に来て)印象に残っていることはありますか?」という質問がありました。
残念なことに、記憶の引き出しが上手く開けられず、まとまった回答ができませんでした…が、”きちんと応えられなかった”という無念さを会場を出てからも拭うことができず、悶々と考える時間が続きました。

「人々の見た目は似ているけど、後は何もかも違う!」と言いたいところですが、粘り強く記憶をたどります。
その中で「トイレがきれい」「水道からお湯が出る」「電気やガスで料理するのってどれだけ便利なの」と感じた自分をおぼろげに思い出しました。

↓↓↓以下、トイレや排泄物についての話です※少し汚い内容も含まれるので苦手な方はスキップしてください↓↓↓

北朝鮮のトイレ、特に地方では”地面に穴だけ空いているだけ”という感じのものが一般的で、他の人の排泄物も普通に目に入ります。
匂いについては言わずもがな(⌒-⌒; )

人間の排泄物は昔の日本のように肥料として農業に活用されます。

また、多くはないようなのですが、豚の飼料に使う場合もあります。
大事なことなので表現を変えて繰り返しますが、人間の排泄物を豚に餌として食べさせている例があるのです。

私の家の近所に住むお爺ちゃんが豚を飼っており、実際に排泄物を煮て豚に食べさせていました。その匂いは筆舌に尽くし難い、おそらく私の生涯で最上位の悪臭です。この先もあれを超えるものとは出会わないでしょう。(出会いたくありません)

”幸い”と言ってはいけないけれど、お爺ちゃんは私たちが引っ越してきた2年後に亡くなり、その後、匂いに悩むことはなくなりました。(合掌)

断っておきますが、人間の排泄物で豚を飼育することは、北朝鮮においても一般的ではありません。私が知っている人の中で豚を飼育する人は多くいましたが、例の飼育法を実践する人は近所のお爺ちゃんの他にはいませんでした。他のところにもちらほらいると聞いてはいますが…

真偽のほどはわかりませんが、例の飼育法で育った豚と真っ当(?)な豚を見分ける方法を母親から教わったことがあります。脂身が極端に少なく、”骨と皮と赤身だけ”のような肉は買わないようにと言われたのです。人間が一度消化して排泄しているものなので栄養は少ないはず。そういったロジックで脂肪がないことは推測できるので、母からの教えは大きく外れてはいないと思います。

我が家では、豚肉を買う場合も知り合いが育てたものを買う場合が多かったので、私は真っ当な豚を食べて育ったと信じ、微塵も疑っていません。

”当事者の語りの大切さ”について綴っていたはずが、なぜか豚の衝撃的な飼育法に話が逸れてしまいました。(テヘッ☆)

結論としては、日本のトイレの綺麗さ!!!が
私が来日して一番印象に残ったことでした。これって本当に素晴らしいことなんですよ。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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