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見えないものたちからのメッセージ

2016年12月のこと。
夜、駅前の藤棚の下を歩いていたら、冷えた空気の中、あちこちで莢がはじけて落ちてきた。
天然の爆竹のような、乾いた良い音。
見ると足元には、すでにたくさんの莢が積もっていた。
あまり意識していなかったけれど、1日前はおそらくそんなに積もっていなかった。だからきっとほとんどがその日の夕方から夜にかけて、気温が下がるのに従って弾けたんだろう。
とても良いタイミングに居合せることができた。

以前、この藤棚の下を歩いていたらおもしろいことがあった。
当時勤めていた職場を辞めるか否かで悩んでいた時に、考えすぎてどうしたら良いのか分からなくなり、空に向かって「なんでもいいからヒントをください!」と心の中で叫んだ。すると藤の葉が一枚ハラハラと落ちてきて、私の鼻の頭にこん、と当たったのだ。
全くうろ覚えだが、以前ある雑誌で北欧の国に昔から伝わるお祭りが紹介された記事を読んだ時に、「天使と遊ぶ方法」が書かれていた。それはこんな風に植物の葉や花を通して行われる方法で、それと似ている気がして嬉しくなり、ふわりと気持ちが軽くなった。
程なくして私はその職場を辞めた。その出来事が直接の決め手になったわけではないが、思い返すたびにあのタイミングで辞めて本当に良かったと思っている。もしも天使がいたなら、本当に報せてくれていたのかも知れない。

しかし退職後、なかなか自分の進む道が見えなかった私は、貯金が減って行く焦りや先の見えない不安に引っ張られて気が滅入っていた。そんなとき、自然からの祝福のようなその音を聞いて、あの葉を落とした藤棚から、「今の時間をよろこびなさい」と言われているような気がした。
普段はなんということもない駅前の景色だけれど、この莢が弾けるぱん!という音と、それを踏む靴の下のぱきぱき言う音が独特の高揚感をもたらしていて、道行く人たちもお祭りに来た子どものように、非日常の景色にわくわくしていた。
下を向いていてはもったいない。自分の中をじっくり覗く時間が与えられたのだ。この特別な空白の時間を大事にしよう、そう思いながら夜の道をぱきぱきと音を立てて歩いた。

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