【500文字小説】出会いと別れと出会いの季節

アラームを止める。まだ五時半か。寝直そうとしたとき、異様な光景に目が覚めた。壁一面に張られた黄色の付箋と、ゴミ箱を埋める丸められたピンクの付箋。
『犬(サスケ)』
『洗濯機に洗濯物』
『朝六時サスケの散歩』
『僕の記憶は一日で消える』
足元を見ると、リードを咥えた柴犬が座っていた。

公園に着くと、サスケが一心不乱にベンチの方へ駆け出すのでそれを追って僕も走った。サスケは座っている女性に飛び付き尻尾を振っている。
「すみません」
「いえ、元気ですね」
「はは…」
一目惚れだった。女性はサクラさんと言って歳は一つ上、早朝の公園の空気が好きらしい。座って話している間サスケは蝶を目で追っていた。
「もうこんな時間だ」
「大丈夫、仕事まだ間に合うので」
「良かったら明日も…いえなんでもないです」
僕がそう言うとサクラさんは小さく笑って公園を出た。

『サクラさん 一目惚れ』
夜、ふと思い立って書いた桜色の付箋をしばらく眺めてから、それを剥がして小さく丸めた。ゴミ箱を埋める付箋の山に目をやって笑う。出会えるなら、何度でも出会いたい。軽く投げた付箋は、花びらが落ちるくらいの小さな音を立ててゴミ箱の中に積もっていった。

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