【小説】信号機に4色目があったら

「犯罪者は目が違う」
その研究結果が出たのが三年程前だっただろうか。研究結果は瞬く間に広がり、小学生は目付きの悪い同級生をイジメの対象にするようになった。研究結果の発表後、あまりにも悪い影響があったため、研究所はその結果を取り下げた。

しかし俺は知っている。その結果は真実だ。起き抜けにコーヒーを飲みながら朝刊を読む。
『犯罪者減少、交通事故増加』
日頃から犯罪者の減少を訴える研究職の俺に、行政は目を付けたらしい。

研究所に向かう途中、赤信号に捕まる。一年程前に導入された信号機は俺の発明品だ。左から青、黄色、赤。その横に常に光っている白。ふいに俺の車の左側スレスレをバイクが後ろから通りすぎた。その直後、目の前で衝突事故が起こる。これだ。これが、望んでいた光景。

人が犯罪を犯す直前の目は、瞳孔が独特な開き方をする。それに合わせて調節した白い信号機の光は犯罪者の目に強く映り込み、隣にある赤信号を見えなくさせる。そして青信号を仄かに灯らせるのだ。最初は誰もが不思議がった新しい信号機も、すぐに街に溶け込んでいった。

もっと、もっと犯罪者を減らさなければ。そうだ、光をもう少し強めに改善すれば、より多くの犯罪者が犯罪を犯す前に事故で死ぬだろう。行政はあまりにも効果のあるこの発明に少し戸惑っているようだったが、それもそのうち黙るだろう。もっと、もっとだ。

ある朝、いつもの交差点にさしかかったときのことだった。信号機を見ると白い光が強く輝き、赤信号はそれに隠れ、青信号が仄かに照らされていた。ああ、俺の発明は間違っていなかった。犯罪者は、減少すべきだ。俺はそのままアクセルを踏み続けた。

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