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곤지암( コンジアム)〜ネクストコリアンホラーの可能性〜

ホラー映画には怖くなければ「駄作」になるという宿命がつきまとう。そういう意味で「リング」「らせん」「呪怨」などにはじまる日本のホラー作品はそれまでとは違う恐怖を観客に提供した。そして言うまでもなく、「ホラー=アメリカ」の牙城を崩し新たな「ジャパニーズホラー」というジャンルを確立した功績は大きい。

ところで韓国文化といえばアメリカの影響が強く、ピザといえばナポリピザよりもアメリカンピザ、ファッションといえばフレンチモードよりもアメリカンストリート、音楽もヒップホップが主流だ。さらにいえば、韓国映画の発展もハリウッド映画に追いついてやろうというクオリティの意識なしにはありえなかったことである。

しかし、筆者が韓国ホラー映画の代表作である「不信地獄」「箪笥」などを鑑賞して感じるのは、ホラー映画はとことんアジア路線であり、とくに日本映画の影響が強いように思える。その証拠に呪怨やこっくりさん系を意識した作品をはじめ、大竹しのぶが怪演を見せた「黒い家」のリメイクなどを通して、ジャパニーズホラーは多くの韓国人にも愛されてきた。

そんななかで異色と言えるのが「昆池岩(ゴンジアム)」という作品。監督は「奇談」チョン・ボンシク監督で日本の高橋洋のようにホラー映画専門に撮る監督だ。そして、「奇談」が独特の美意識で描かれていたのに対して、本作品はリアリティかつカジュアルさを重視している。

昆池岩とはCNNが選んだ「世界7大禁断の地」にも選ばれた韓国の精神病院の廃墟で、多くの物好きが肝試しに訪れることで有名なスポットだ(日本からは青木ヶ原樹海と軍艦島が選ばれている)。

本作品の内容もホラー同好会が昆池岩を訪れる模様をYou Tubeで中継し、一稼ぎしようと目論むものだ。

メンバーはアクティブカメラの「Go Pro」を装着して現場を撮影するのだが、その映像がそのままスクリーンに映し出されるため、観客は臨場感を味わえる。だが、これはまさしく「ブレアウィッチプロジェクト」すでに使われたような手法だ。さらに、判断力に乏しいリーダー、やたら胸を強調する露出度の高い帰国子女、活発な少しおっとりしたメンバーなどある意味ホラー映画のステレオタイプタイプで構成されたパーティーの馬鹿騒ぎからスタートして、やがて恐怖のどん底に落ちるというのは、アメリカホラーのおきまりである。そこに「呪怨」で有名となったあの大きい黒目の演出などアジアホラーの要素も至るところに見られる。まさにホラー映画の教科書を見ているようなのだ。

それにもかかわらず怖い。わかっているのに怖いのだ。2018年3月に劇場公開された本作品だが、韓国の劇場では恐怖で失神した観客がいたという。興行的にも大成功を収めた本作品。観客動員数は260万人を超え、ソウルの4分の1の人が観た計算になるという凄まじさだ。人々の間に口コミで評判が広がり、字の如く怖いもの見たさで劇場に足を運ぶという流れができたのが、成功の一因ではあるが、それよりも、本作が認められたのはホラー映画としての高い完成度にある。

ホラー映画は塩梅が大事だ。話が難しすぎると、理解に頭を使うので恐怖感は薄れ、演出が過剰すぎると大げさすぎて興ざめする。

この点では本作は恐怖を醸成するための伏線やシナリオ作りなど、ホラー映画の基本を丁寧に踏襲しながら、実に良い塩梅で制作されている。誰もが知っているホラー映画の要素を分解して、再構築することで、既視感がありながらも新しい感覚で鑑賞できる完成度の高さが極上の恐怖を約束してくれるのだ。

98年公開の「リング」からもう20年。日本、韓国を含めたアジアのホラー映画が曲がり角に差し掛かっているなか、多数のホラーを制作してきたチョン・ボンシク監督の矜持と挑戦を見たような映画だった。

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