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神々は笑い、花は咲く

山笑う、という季語があります。
以前から、表現豊かな言葉だなと思っていましたが、こんな素敵な記事を書いている方がいらっしゃいました。

記事中の絵だけでなく、写真にまで
「モジョモジョとくすぐったそうに笑っていた山の木々」
が写り込んでいるようで、春ならではの幸福感を思う存分味わうことができます。

昔、書道の先生が、華麗な筆さばきで行草体の作品を書きながら
「笑うは咲くと置き換えていいんだ。同じ字だから」
とおっしゃっていました。

同じ字?その意味がわからず、放置したまま今に至っていました。
ところが先日投稿した記事へのコメントで、このことについて言及してくださった方がいて、あらためて調べてみようという気になりました。


「笑」は「咲」の異体字、もしくは「咲」は「笑」の古字。
もともと「わらう」「花が咲く」の両方の意味を持っており、日本では「咲」は「花が咲く」専用に使われています。

声符は关(しょう)。〔説文新附〕五上に笑を録し、竹夭(よう)に従って、竹葉の風になびくさまとする説をしるしているが、もと(若)と同じく、巫女が手をかざして歌舞する形。えらぎ笑うことが、神を楽しませる方法であった。
关はその略形とみるべき字である。咲は笑の古文とされるが、古い字書にみえず、李義山の〔雑纂〕に「未だ語らざるに先づ咲ふ」ものを、「かたはらいたきもの」とする一条がある。「花咲く」は、古くは「花開(さ)く」「花披(さ)く」といい、〔色葉字類抄〕にも「さく」という訓はなおみえない。

普及版 字通「咲(漢字)」の読み・字形・画数・意味

※上の抜粋は、異体字、旧字が入力できなかったため、現在の漢字に置き換えました。

辞書の定義はなぜこんなに難しいのだろうと、毎度ため息をつきますが…。

「笑」は
竹の葉が風になびく様子。
巫女が手をかざして歌舞する形。
神々は巫女が歌い舞うことで喜ぶ。

上記の定義にでてくる「えらぎ遊ぶ」は、漢字で書くと歓喜咲楽。えらぐ(ゑらく)は充足して喜びながら笑うの意味です。歓喜咲楽は古事記の天岩戸開きの場面に出てくる言葉です。

於是天照大御神、以爲怪、細開天石屋戸而、内告者、因吾隱坐而、以爲天原自闇、亦葦原中國皆闇矣、何由以、天宇受賣者爲樂、亦八百萬神諸咲。爾天宇受賣白言、益汝命而貴神坐故、歡喜咲樂

古事記

そして、天宇受売命は巫女です。

天鈿女命
古代に宮中の祭りで巫女の役をした,猿女の祖先の女神『古事記』では天宇受売命。

コトバンク『天鈿女命(あめのうずめのみこと)とは?意味や使い方

巫女である天宇受売命が風になびく笹(一説にはオキタマ)を持ち、おおらかに踊るさまに神々が笑いさざめく。

調べていくにつれ、「笑」「咲」という漢字が、古事記のそんな場面を指しているように思えて仕方がなくなりました。

山が笑う。とても素敵な言葉です。
春を寿いで山々で神様たちが笑っている景色が目に浮かぶようです。

参照元:

※綿棒で笑う山を描いたそば茶さんが、この記事の番外編?を書いてくださいました。言葉と言葉がどんどんつながっていくような、不思議な気分です。


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