見出し画像

冥界の花

娘がギリシアから帰ってきました。

旅先からポツポツ近況報告メールを送ってくれていましたが、どうやら私が寂しがっていることを察してくれたらしく、ある時
「冥界の花でもどうぞ」
と写真を送ってきてくれました。

アスフォデロスです。
  • ツルボラン科ツルボラン属。

  • 地中海地域原産、温帯ヨーロッパにも生息。

  • 3 月下旬から 6 月にかけて開花。6 枚の花弁を持ち、花色は品種により白、黄色、薄ピンク等があります。

  • ギリシア語の一般名はΑσφόδελος。

  • 英語名はAsphodel、King’s spear(王の槍)、Jacob’s rod(ヤコブの棒)。
    王の槍は、開花時の形状から。
    ヤコブの棒は、旧約聖書 創世記30章37節、ヤコブがポプラの枝の皮をはいで水の中に入れたという逸話に由来します。

37 ヤコブは、ポプラとアーモンドとプラタナスの木の若枝を取って来て、皮をはぎ、枝に白い木肌の縞を作り、
38 家畜の群れがやって来たときに群れの目につくように、皮をはいだ枝を家畜の水飲み場の水槽の中に入れた。

出典:創世記 30 | 新共同訳 Bible | YouVersion "創世記30章37-38節"

下記のサイトに、この花に関するかなり詳しい考察がありました。

抜粋超訳すると‥

アスフォデロスは長らく冥界のイメージと結びつけられてきた花なのだそうです。
ホメロスの叙事詩オデュッセイアの中で、冥界はこの花と同じ名前"asphodel meadow"(アスフォデロスの野)と表現されています。そこから後世の詩人たちは、古代ギリシア人にとっての来世は、春の花が咲き乱れる美しい野原であると解釈してきました。
しかしホメロスは、冥界を暗く荒涼とした場所として描いており、冥界に対する後世の明るいイメージとはだいぶかけ離れています。
このアスフォデロスをめぐる矛盾に関しては、この逸話が複数の文化的伝統の混ざり合った結果であるとする解釈や、季節の変わり目に、荒れ野から緑豊かな明るい野原まで、様々なところで花を咲かせる花の性質に根拠をもとめるなど、様々な議論があるそうです。

「なんで冥界なのかは正直わかりません。Delphoiみたいな随分と標高の高いところにも生えているから(どこにでも生えてる)、天に近いのに冥界とはこれ如何にと思っています。」

花の写真と共に送られてきた娘のコメント。
大学で西洋古典を学んだ彼女は、ことあるごとに引率の先生をつかまえていろんな質問をぶつけたらしく、この質問もしたのだそうです。
先生の答え: どこにでも咲いているからじゃないの?
さすが先生。旅の間中、こだわりやの彼女が随所でぶつける質問を上手に交わしたようです。彼女の関心事と先生のそれとが一致しなかっただけかもしれませんが。

写真の中のアスフォデロスの花。
この写真から不思議な雰囲気を感じるのは私だけでしょうか。
花が持つ雰囲気もさることながら、細部まで花の様子が写りこんだこの写真には、ピントが合っているというだけではなく、彼女が旅の間中、全身で感じてきたギリシアの空気も写っているように思えます。

「山に雲がかかっているとき、雲は遠くに見えるのに、雲の上から見える山はすごく近く見えるんだよ。
アクロポリスの丘だってどこにいたってすごく近くにみえるし。
近いと思って油断すると、ひどい目にあうんだよね。」

そんなギリシアの空気を全身で感じてきた彼女だからこそ、こういう写真が撮れたのだろうと、この写真を何度も眺めながら考えています。

おまけ

「コレットは死ぬことにした」という漫画に、天国行の死者が過ごす花畑アスポデロス(=アスフォデロス)が登場します。アスフォデロスの花は描かれていないようにみえますが、とても素敵な花畑が描かれていて、後世の詩人たちが夢想した冥界は、こういうところだったのではないかなと思っています。
タイトルと、いかにも少女漫画らしい絵で食わず嫌いをしていましたが、読み始めたらとても素敵な話でした。タイトルでだいぶ損をしている気がしますが、このタイトルでなければならない理由も、最後の方でわかります。
有名な作品なのでご存知の方が多いと思いますが、まだの方、機会があったら手に取ってみてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?