古沢茶太郎

文章を書いたり、写真を撮ったり、 インタビューをしてみたり、色々やってます。 有料記事…

古沢茶太郎

文章を書いたり、写真を撮ったり、 インタビューをしてみたり、色々やってます。 有料記事もありますが、ガチャガチャだと思って読んでみてください。 誰かにとって価値があると信じて書いています。

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最近の記事

【短編】まだ世界はこんなにも美しい。

微熱だった。 ずっと全速力のような毎日に身体が参ってしまったのだろう。 重たい身体を起こしてシャワーを浴び、洗面台に立った。 ドライヤーをかけていると脇に置いた機械が 友人からのメッセージを知らせる。 延期にしていた予定のリマインドのようだ。 精一杯時間はつくっていても、一度に全てを叶えるのは難しい。 カレンダーを眺めると2か月後の候補日をいくつか見繕って送った。 出勤まであと30分。 気温を確かめるべく窓を開ける。 やや涼しい風が洗面所の空気を押し

    • 【雑記】ブックハンティング

      本屋に寄った。 有名タイトルが魅力的な表紙で並ぶ。 2つほど手に取った。 熱心な読書家でもない私でも知っている本をひとつ。 そして、タイトルは知らないが気になったものをひとつ。 2つ目の本は埃をかぶっていたことに気付いた。 そいつをどかして綺麗なものを取ろうとした。 しかし、こいつは俺が買わないと一生ホコリに塗れたまま買われずに終わるかもしれない。 放っておけなくて買った。 レジに連れていく。 レシートはいるか聞かれる。 私とこの本たちとの繋がりを捨てるようで忍び

      • 【雑記】俺が悪いのかポモドーロ。

        え?うそうそうそ! 洗面台の前でネクタイを絞めていた私の後ろを朱里(あかり)が慌ただしく通り過ぎる。 私のユニフォーム知らない? どうやら持ち帰ったはずの職場のユニフォームがないらしい。 失くしたのは上着が1着。それ以外の服はあるようだ。 プライドの高い朱里は職場に打ち明けることを考えて苦虫を噛み潰したような顔をした。 無理。ほんとに無理。 見つからないと悟った朱里はベッドに潜り込んだ。 ぶつぶつと文句を言うのが聞こえる。 慰めにいくと、怒りの矛先は私に向いてい

        • 死ぬな、という無責任。

          私は「死んじゃダメ」という主張があまり好きではない。 ただし、”死ぬべきだ” という過激な話でもない。 好きでない理由は至ってシンプル。 仮に死ななかったとしても、その先の人生の幸せを 誰も保証してやれないからだ。 死にたい人、というのは生きることが”拷問”になってしまっているからこそ死んでしまいたい、と思っていることが多い。 つまり、ただ死ぬな、と止めるのはもっと拷問を受けろ、と言っているのと同じ意味合いで通じてしまう人がいるのだ。 止める側にそんなつもりがないのは

        【短編】まだ世界はこんなにも美しい。

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        • 古茶の短編小説集
          8本
        • エッセイ崩れと雑記
          4本
        • 「背景」インタビュー記事
          4本
        • ウミガメのスープ
          1本

        記事

          【短編】空々漠々

          目覚めると俺は真っ白な空間にいた。 昨夜は何をしていただろうか。 いつもより空虚な気持ちになり、浴びるように酒を飲んでいたことは覚えている。 それにしても何もない空間だ。 方向感覚も平衡感覚もない。 柄も陰影もない。 紛れもない「一色」の空間。 空虚を感じて酒を飲んだのに、本当の空虚な空間に来てしまった。 少し歩いてみる。 歩いている感覚はあるが、前に進んでいるようには思えない。 現実世界の空虚な気持ちは暗闇や地中に例えられることが多い。 もちろん”真っ白なキ

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          100

          【短編】空々漠々

          #4「背景」”1を1として生きる”

          相手の倫理がわからないからこそ、自身の倫理を押し付けないMさん。 彼女の持つ独特な距離感の理由とは。 ーーーー

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          #4「背景」”1を1として生きる”

          #3「背景」 ”倫理の暴走”

          解決金の交渉、ICレコーダーの活用など、 ハラスメントに対して気丈に立ち向かったMさん。 彼女はどんな過去を経て”彼女”になったのか。 ーーーー Mさんにとっての困難取材を進めていく中で、Mさんの気丈さや優れた危機察知能力が見えてきた。 そんな彼女はどうやって形作られてきたのだろうか。 涼しい顔でパワハラの顛末を語る彼女に ”今までに辛かったことなどは何かあるか” と尋ねてみた。  Mさんは 「そうですね…。私自身に降りかかった困難は基本的には自業自得なものが

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          200

          #3「背景」 ”倫理の暴走”

          #2「背景」”ハラスメントの変化”

          (この記事は #1「背景」”ただでは転ばない” の続きです。) 体調不良を理由に上司へと相談したところ、ハラスメント被害にあってしまったMさん。何度かの交渉の末、解決金と会社都合という名目を約束させ、退職する。 しかし、ハラスメントは著者の想像とは少し異なるものだった。 ーーーー 上司の正体。パワハラの変化。 Mさんの話を聞いていると、ふと話の流れで、 「それであの女が…」とMさんが口走った。 私はずっとAを男性だと思い取材を進めていたが、 Aは”妙齢”の女性らし

          #2「背景」”ハラスメントの変化”

          差出人不明 # 1

          家を飛び出してから苦労だらけでした。   吐くぐらい嫌なこともたくさんあり、 それを経て生活をしている自分のことも大嫌いです。 それでも家を出てきたことを後悔はしていません。 あの選択が正しかった。   食事のとき、お風呂に入ったとき、夜眠るとき 嫌でもあなたたちを思い出すから。 あなたたちは 「もっとつらい境遇の中で生きている人もいる」 「うちは恵まれている」 といつも私を殴った後に言いましたね。 確かにそうだった。 様々な境遇の中で苦しんでいる人は 数えきれないほど

          差出人不明 # 1

          【雑記】雨雲が両親を迂回して、俺に直撃した話

          ある日、夜勤終わりの私は決意した。 「沖縄…沖縄に行こう…」 沖縄に行くことを決意した私は一か月後に飛行機の予約を取り2泊3日の沖縄弾丸ツアーを企画した。 当時、職場に入って仕事をだいぶ覚えてきたところで 資金面でも少し余裕が出てきた頃。 私には一定以上のストレスが溜まると、唐突に旅行に行く習性がある。 接客業で、なおかつ人手不足であった私の職場は、新人にも容赦のない量の仕事が降ってきていて、しゃべれるコミュ障である私の ”人付き合いバケツ” は既に溢れ出していた。

          【雑記】雨雲が両親を迂回して、俺に直撃した話

          #0フロリア-普通という名の中央値

          都内の職場から電車で30分。 駅から住宅街を歩いて10分弱。 わずかに風呂の香りがする。 目当ての場所が見えてきた。 近くの風呂屋が潰れて3か月。 何か行き詰ったときや、 悩みがあるときは風呂で考え事をしていた私は 二番目に近いこのスーパー銭湯を訪れた。 歩いて通うには少し距離があったが、 比較的空いていて、小さいながらも露天風呂もあり、 私はすっかりここの常連になっていた。 この日も飲み込むにはやや大きい悩みがあり、 訪れていた。 お金を払い、受付でタオルを受け

          #0フロリア-普通という名の中央値

          【短編】融雪歌

          シャッ...シャッ...。  乾いた音を響かせながら、夜の路地を歩く。    今日はやけに風も強く、冷たい。  なんだか寂しげな夜だった。 ジャッジャッ...。  街に響く足音がわずかに変わった。    ふと足元を見ると、ビルと電柱の間に 小さな雪の塊がいる。    ニュースを騒がせた大雪から1週間。  町はすっかり全てを忘れて、 近所でしぶとく残っていた雪も 3日後には消えていた。  こいつは日の当たらない中、 様々な人に邪険にされ、

          【短編】融雪歌

          【短編】無意識の開拓者

          満員電車。突如ひとつ空いた席。 受け入れるには狭く、 見過ごすには広すぎるその隙間を見て、 大人はたじろぎ周囲を確認した 自分よりふさわしい誰かを探していた。 誰かにとどめをさして欲しがっていた。 次の駅に着く。 ファーを纏った女子高生が スマホを見ながら大人の間を掻い潜り、 ストンとそこに落ち着いた。 一瞬ぎこちない空気が流れ、 みなおずおずとスマホに目線を落とした。

          【短編】無意識の開拓者

          【短編】寒空を眺める二匹

          ふと家にいると、どうにも落ち着かなくなって ジャンパーを羽織って外へと飛び出した。 徒歩10分程の公園に向かう。 もう日も沈み、公園には誰もいなかった。 こじんまりとしたこの公園には、 小さな滑り台と砂場とベンチくらいしかない。 冷えきったベンチに腰を下ろす。 カシュッと途中で買った缶コーヒーを開けて、 どことも言えない正面のやや上方を眺める。 なにかしたいとは思っている。それでも ”何をやめて" "何に手をつけなければならない" のかわからなかった。 そして、何より

          【短編】寒空を眺める二匹

          【コラム】ずる休みをめぐるジレンマ

          ずる休み。職場から恨まれ、自身も罪悪感に苛まれる行為。 病欠、忌引き、天災など、理由は多岐にわたる。 遅刻に関しても、 電車の遅延や車の渋滞などの交通状況による遅延。 よく話題に上がるものでは ” おばあちゃんを助けていて… " なんてものもある。 こういった事由を聞き入れた職場や学校の人間は、 欠勤や遅刻の処理をするとともに、頭に「本当に?」という考えがよぎる。 これが初回であれば、そんなこともある、とさして気にも留めないかもしれないが、これが2回目3回目になるにつ

          【コラム】ずる休みをめぐるジレンマ

          【短編】勘定失敗

          妻と喧嘩した。 普段親友のように仲が良いが、 それと同じくらい喧嘩も多かった。 その日もいつもと同じような喧嘩だと思い 例のごとくケーキを買って帰った。 あれから5年。 隣の部屋から妻の声が聞こえてくる。 "ご飯ですよ。 そろそろ出てきてください。" 私はまだ許されていない。

          【短編】勘定失敗