【雑記】俺が悪いのかポモドーロ。
え?うそうそうそ!
洗面台の前でネクタイを絞めていた私の後ろを朱里(あかり)が慌ただしく通り過ぎる。
私のユニフォーム知らない?
どうやら持ち帰ったはずの職場のユニフォームがないらしい。
失くしたのは上着が1着。それ以外の服はあるようだ。
プライドの高い朱里は職場に打ち明けることを考えて苦虫を噛み潰したような顔をした。
無理。ほんとに無理。
見つからないと悟った朱里はベッドに潜り込んだ。
ぶつぶつと文句を言うのが聞こえる。
慰めにいくと、怒りの矛先は私に向いていた。
謂れはなかったが、何か漠然とした怒りや不満をぶつけるのに俺がちょうど良かったらしい。
この分だと面接後のデートもなしだろう。
…俺も面接前なのにな。
スーツを羽織り外に出る。
嫌味なほどの晴天。
嫌がらせのようなデート日和だった。
いっそ面接予定の会社に適当な理由でキャンセルして1人で旅にでも出ようか。
なんてな。
誰に聞かせるでもなく、会社の前で口走る。
吸って吐いて中へと入った。
まあ面接は6割の出来だった。仕方ない。
スーパーで買い物をしてとぼとぼと帰る。
買いたいものは買えたし、野菜もたくさん買ったから家にあるトマト缶でポモドーロでも作ろうかな。
お互いにほっこりできるご飯がいいだろうし。
家に帰ると朱里は未だにベッドでうずくまっていた。
鍋にトマト缶を開けてコトコトと煮る。
リズムを奏でる鍋の前で私の頭は路頭に迷う。
食材を切り、鍋に放ってさらに煮る。
宛先のないモヤモヤは目の前の鍋に向けられる。
なぁ俺が悪いのかポモドーロ。
くるくると混ぜる。
コンソメを入れ、フライドガーリックをいれ、
バターを入れ、ぐるぐると混ぜる。
俺が悪いのかなポモドーロ。
この気持ちも溶けてしまえと思いながら。
少し掬って口に運ぶ。
…うん。
我ながらなかなかに美味しいスープができた。
ちくしょう。美味い。こういう時に限って。
器によそい、少しばかりのパセリをかけ、
温めたごはんと共に食卓に運ぶ。
ベッドのぶつぶつ星人に声を掛ける。
ポモドーロ作ったからおいで。美味しいよ?
もそもそと異星人は食卓に現れるとスープを啜る。
黙って食べてはいるが美味いらしい。
自分もスープを口に含み、ご飯を食べる。
うんうん。いい出来。
まぁ、こんな日もある。
この2人の気持ちを鎮めたのならこのポモドーロはいい仕事をした。
雰囲気で作ってしまったが、今度はレシピを見ながら作ろうかな。
ポモドーロポモドーロ。
ポモドーロのレシピは…。
ふん…。
なんだ俺が作ったのはミネストローネだったか。
(終)
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