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カイエ・デュ・シネマ ベストテン2018個人のベストを読み解く

こんばんは、チェ・ブンブンです。2019年も1週間程経過し、各映画メディアの2018年ベストテンが大分出揃いました。どうもアメリカのベストテンは、付和雷同というよりかどこも似たり寄ったりというイメージが強くそこまで面白さを感じないのですが、フランスは各メディア「俺らのベストテンの方がサイコーだぜ!」と個性的なベストテンを出していて面白い。

特に、カイエ・デュ・シネマはいい意味でも悪い意味でも天邪気で面白く、毎年楽しみにしています。そんなカイエの2018年ベストテンは下記です。
※下線部をクリックするとブンブンのレビューに飛びます。

1. ワイルド・ボーイズ(ベルトラン・マンディコ)
2. Coincoin et les z'inhumains(ブリュノ・デュモン)
3. ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン)
4. バーニング 劇場版(イ・チャンドン)
5. Paul Sanchez est revenu!(Patricia Mazuy)
6. ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(スティーヴン・スピルバーグ)
7. 夜の浜辺でひとり(ホン・サンス)
8. The House That Jack Built(ラース・フォン・トリアー)
9. Leto(Kirill Serebrennikov)
10. L'Île au trésor(ギヨーム・ブラック)

さて、このラインナップを見ると、カイエ雑誌の編集者の個人票が気になるもの。やはり、個人票の集合がメディア全体の総意になっている。特にホン・サンスとギヨーム・ブラックはフランスで2作品公開されているだけあって票が分かれている気がします。そこで、今回個人票を入手したので掲載します。投票者が少ない分、大荒れな結果となっていますよ。

Nicolas Azalbert

1. サマ(Lucrecia Martel)
2. Coincoin et les z'inhumains(ブリュノ・デュモン)
3. バーニング 劇場版(イ・チャンドン)
4. 9 doigt(F.J.Ossang)
5. ワイルド・ボーイズ(ベルトラン・マンディコ)
6. Frost(シャルナス・バルタス)
7. Au Poste!(Quentin Dupieux)
8. 夜の浜辺でひとり(ホン・サンス)
9. Paul Sanchez est revenu!(Patricia Mazuy)
10. L'Île au trésor(ギヨーム・ブラック)

カイエの中で一番、ベストテンに近い選出をしてくる人物。とはいえ、意外と普通の作品を選んでくることもあり、昨年は7位に『ラ・ラ・ランド』を選出しています。そんな彼の総意以外の選出は、2018年アート系映画にフォーカスを当てるメディアが相次いで絶賛したアルゼンチン映画『サマ』。MUBIで特集が組まれたF.J.Ossangの『9 doigt』、そしてシャルナス・バルタスの『Frost』となっています。『Frost』は2019/01/09現在MUBIで配信中です。

Stéphane du Mesnildot

1. ワイルド・ボーイズ(ベルトラン・マンディコ)
2. バーニング 劇場版(イ・チャンドン)
3. Mektoub, My Love: Canto Uno(アブデラティフ・ケシシュ)
4. Un couteau dans le coeur(ヤン・ゴンザレス)
5. ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン)
6. 散歩する侵略者(黒沢清)
7. The House That Jack Built(ラース・フォン・トリアー)
8. Sophia Antipoils(Vigil Vernier)
9. 夜の浜辺でひとり(ホン・サンス)
10. 9 doigt(F.J.Ossang)

ATG等日本の前衛ディープな映画を研究しており、ブログ《Stéphane du Mesnildot Japanese Blog 東京の奇妙な日々》で日本映画を紹介している映画評論家。日本通だけに日本映画には甘い傾向があり、昨年のベストテンでは、『クリーピー』、『君の名は。』、『さようなら』と3本もの日本映画を選出していました。そんなStéphane du Mesnildotですが、どうやら濱口竜介映画には嵌らなかったようで、『ハッピーアワー』も『寝ても覚めても』も選出していませんでした。

Thierry Méranger

1. The House That Jack Built(ラース・フォン・トリアー)
2. Leto(Kirill Serebrennikov)
3. 万引き家族(是枝裕和)
4. ワイルド・ボーイズ(ベルトラン・マンディコ)
5. ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン)
6. サマ(Lucrecia Martel)
7. Trois Visages(ジャファール・パナヒ)
8. Paul Sanchez est revenu!(Patricia Mazuy) 
9. バーニング 劇場版(イ・チャンドン)
10. Girl(Lukas Dhont)


割とカンヌ一色な選出です。カイエは苦手だろと思っていた『万引き家族』もちゃんと評価している人がいました。

Cyril Béghin

1. ワイルド・ボーイズ(ベルトラン・マンディコ)
2. ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン)
3. Paul Sanchez est revenu!(Patricia Mazuy) 
4. 万引き家族(是枝裕和)
5. Coincoin et les z'inhumains(ブリュノ・デュモン) 
6. 狼チャイルド(マルコ・ドゥトラ&フリアナ・ロハス)
7. Le ciel étoilé au-dessus de ma têt(Ilan Klipper)
8. サマ(Lucrecia Martel)
9. バーニング 劇場版(イ・チャンドン)
10. ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(スティーヴン・スピルバーグ)

去年は、ほとんど総意通りのベストテンだったCyril Béghinですが、今年は結構チャレンジングな年だったようです。シッチェス、ロカルノで評価されたゲテモノ映画『狼チャイルド』を評価しています。また、『若い女』や『ソルフェリーノの戦い』に近い雰囲気の『Le ciel étoilé au-dessus de ma têt』も選出しています。

Nicolas Elliott

1. ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン)
2. ハッピーアワー(濱口竜介)
3. Coincoin et les z'inhumains(ブリュノ・デュモン)  
4. Madame Hyde(セルジュ・ボゾン)
5. Contes de juilet(ギヨーム・ブラック)
6. High Life(クレール・ドゥニ)
7. クレアのカメラ(ホン・サンス)
8. 死靈魂 (ワン・ビン)
9. 狼チャイルド(マルコ・ドゥトラ&フリアナ・ロハス)
10. ワイルド・ボーイズ(ベルトラン・マンディコ)

アジア映画担当のNicolas Elliottですが、総意とは別ベクトルのアジア映画に身体が向いていました。ここにはイ・チャンドンもいないし、是枝裕和もいません。ホン・サンスも『夜の浜辺でひとり』ではなく、『クレアのカメラ』を選んでいます。また、ワン・ビン8時間フルマラソンにも挑戦していたようです。ギヨーム・ブラックも『Conte de huilet』の方を選んでいます。割と天邪鬼?

Ariel Schweitzer

1. サマ(Lucrecia Martel)
2. Coincoin et les z'inhumains(ブリュノ・デュモン)  
3. ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン)
4. 万引き家族(是枝裕和)
5. 最後の家族(ヤン・P・マトゥシンスキ)
6. Paul Sanchez est revenu!(Patricia Mazuy) 
7. ザ・ライダー(クロエ・ジャオ)
8. Shéhérazade(Jean-Bernard Marlin)
9. Leave No Trace(デブラ・グラニック)
10. Contes de juilet(ギヨーム・ブラック) 

割と、アメリカのアート系映画メディアなラインナップです。『サマ』、『ザ・ライダー』、『Leave No Trace』とアメリカで話題となったインディーズアート映画がたくさん入っています。

Camill Bui

1. 夜の浜辺でひとり(ホン・サンス)
2. Coincoin et les z'inhumains(ブリュノ・デュモン)  
3. ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン)
4. L'Île au trésor(ギヨーム・ブラック)
5. Un violent désir de bonheur(クレメント・シュナイダー)
6. Sophia Antipoils(Vigil Vernier) 
7. バーニング 劇場版(イ・チャンドン)
8. Demons in Paradise(ジュード・ラットナム)
9. Au Poste!(Quentin Dupieux)
10. Terra Franca(Leonor Teles)

新人(?)Camil Buiのリスト。シネフィル内の票に自分の感性をコントロールされまいと、シネフィルですら発掘できていない作家を見つけ出そうとするラインナップになっています。日本ではあまり知られていない監督の作品が多いです。

Joachim Lepastier

1. 夜の浜辺でひとり(ホン・サンス)
2. ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(スティーヴン・スピルバーグ)
3. 犬ヶ島(ウェス・アンダーソン)
4. ライオンは今夜死ぬ(諏訪敦彦)
5. バーニング 劇場版(イ・チャンドン)
6. The House That Jack Built(ラース・フォン・トリアー)
7. Leto(Kirill Serebrennikov)
8. ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン)
9. 狼チャイルド(マルコ・ドゥトラ&フリアナ・ロハス)
10. ワイルド・ボーイズ(ベルトラン・マンディコ)

割とビザールな映画に目がないJoachim Lepastierも『ペンタゴン・ペーパーズ』を選ぶのかと思って読んでいたら、『犬ヶ島』や『ライオンは今夜死ぬ』を選んでいて、やっぱし!と思いました。

Jean-Phillipe Tessé

1. 夜の浜辺でひとり(ホン・サンス)
2. Coincoin et les z'inhumains(ブリュノ・デュモン)  
3. Leto(Kirill Serebrennikov)
4. ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(スティーヴン・スピルバーグ)
5. Paul Sanchez est revenu!(Patricia Mazuy) 
6. バーニング 劇場版(イ・チャンドン)
7. Maya(ミア・ハンセン=ラヴ)
8. Mektoub, My Love: Canto Uno(アブデラティフ・ケシシュ)
9. ハッピーアワー(濱口竜介)
10. サマ(Lucrecia Martel)

それにしても...アブデラティフ・ケシシュ監督が『アデル、ブルーは熱い色』で獲ったパルムドールを売ってまで製作した『Mektoub, My Love: Canto Uno』を評価している人が意外と多い。カイエ以外で全く評判を効かないのだが、日本では果たして公開されるのだろうか...

Jean-Sébastien Chauvin

1. ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(スティーヴン・スピルバーグ)
1. Sophia Antipoils(Vigil Vernier)
3. Un couteau dans le coeur(ヤン・ゴンザレス)
4. ヘレディタリー/継承(アリ・アスター)
5. Paul Sanchez est revenu!(Patricia Mazuy) 
6. クレアのカメラ(ホン・サンス)
7. ワイルド・ボーイズ(ベルトラン・マンディコ) 
8. Cassandro, the Exotico!(Marie Losier)
9. ULTRA RÊVE(ヤン・ゴンザレス、ベルトラン・マンディコ他)
10. Leto(Kirill Serebrennikov)

2018年のゲテモノ映画はヤン・ゴンザレスの『Un couteau dans le coeur』とベルトラン・マンディコの『ワイルド・ボーイズ』がフランスを席巻した。実はそんな二人とキャロライン・ポギー&ジョナサン・ヴィネルが製作したオムニバスが作られていた。それも評価しているこの人なんだ?と思ったら、昨年フランス未公開にも関わらず、『KUSO』をベストテンに入れていた人だった。

Florence Maillard

1. ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(スティーヴン・スピルバーグ)
2. Mektoub, My Love: Canto Uno(アブデラティフ・ケシシュ) 
3. The House That Jack Built(ラース・フォン・トリアー)
4. Paul Sanchez est revenu!(Patricia Mazuy) 
5. Madame Hyde(セルジュ・ボゾン)
6. 夜の浜辺でひとり(ホン・サンス)
7. Sophia Antipoils(Vigil Vernier)
8. L'Île au trésor(ギヨーム・ブラック)
9. FOOTBALL INFINI(Corneliu Porumboiu)
10. Leto(Kirill Serebrennikov)

ルーマニアの片田舎でサッカーの新ルールを開発した県職員に迫った『FOOTBALL INFINI』を選んでいるところがユニークです。

Laura Tuiller

1. Coincoin et les z'inhumains(ブリュノ・デュモン)  
2. クレアのカメラ(ホン・サンス)
3. ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン) 
4. L'Île au trésor(ギヨーム・ブラック)
5. Six portraits XL(アラン・カヴァリエ)
6. 狼チャイルド(マルコ・ドゥトラ&フリアナ・ロハス) 
7. Au Poste!(Quentin Dupieux)
8. Mektoub, My Love: Canto Uno(アブデラティフ・ケシシュ) 
9. ハッピーアワー(濱口竜介)
10. Retour à Bollène(Saïd Hamich)

AlloCineを見た感じ、アラン・カヴァリエの新作オムニバス『Six portraits XL』結構入れている人いるんだろうなと思ったら、結局Laura Tuillerしかベストテンに入れていませんでした。

Stéphane Delorme

1. ワイルド・ボーイズ(ベルトラン・マンディコ) 
2. バーニング 劇場版(イ・チャンドン)
3. The House That Jack Built(ラース・フォン・トリアー)
4. Coincoin et les z'inhumains(ブリュノ・デュモン)  
5. Au Poste!(Quentin Dupieux)
6. Paul Sanchez est revenu!(Patricia Mazuy) 
7. L'Île au trésor(ギヨーム・ブラック)
8. 草の葉(ホン・サンス)
9. Leto(Kirill Serebrennikov)
10. ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(スティーヴン・スピルバーグ)

ホン・サンスの『草の葉』はカイエがベストテンを発表する直前に公開された作品。まあ、発表時フランス国内では公開されていなかった『Leto』を多くの方がベストテンに入れているので不思議ではないのだが、滑り込みで入った感が強いラインナップです。

Vincent Malausa

1. Coincoin et les z'inhumains(ブリュノ・デュモン) 
1. The House That Jack Built(ラース・フォン・トリアー)
1. ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン) 
4. 犬ヶ島(ウェス・アンダーソン)
5. 草の葉(ホン・サンス)
6. Climax(ギャスパー・ノエ)
7. ハロウィン(デヴィッド・ゴードン・グリーン)
8. Le ciel étoilé au-dessus de ma têt(Ilan Klipper) 
9. ワイルド・ボーイズ(ベルトラン・マンディコ) 
10. Un couteau dans le coeur(ヤン・ゴンザレス)

個人的に、一番ブンブンの趣味に近い気がする。何と言っても、ギャスパー・ノエの『Climax』を選んでいるところに親近感を抱きました。『ハロウィン』の続編を入れているところもまた面白い。

おわりに

いかがでしたでしょうか?個人の票を見ると、個性的なラインナップになっていることがわかりました。結構、ホン・サンスも『夜の浜辺でひとり』、『クレアのカメラ』、『草の葉』で大きく票が分かれていました。ただ、少人数の得票だから、しっかりとベストテンに総合的な個性が反映されます。

やはり、アメリカのベストテンを読み解くより読み応えがありました。



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