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(追補あり)どうしてウクライナを貶める歌を―中川五郎さんの「パリャヌイツャ」という歌に込められたウクライナ批判に強い違和感

(追補)
2024年3月14日に中川五郎さんが自らのホームページにおいて、以下のような文章を発表いたしました。https://goronakagawa.com/diary/2024-03-14.html

「ぼくの作った「パリャヌィツャ」という歌が、稚拙で無知で乱暴で未熟で早計なところがあり、自分の思いを十分正しく伝えられなかったということをまずは自ら認めなければならないだろう。それらの欠点ゆえに、青山正さんがnoteの文章で書かれているように、ウクライナを批判するために関東大震災の時の朝鮮人虐殺に使われた「十五円五十銭」と対をなすように「パリャヌィツャ」を持ち出している歌、ロシア語話者への弾圧のないウクライナでのロシア語話者への弾圧を持ち出して意図的にウクライナを貶める歌、確信犯的にプーチン大統領の歪んだプロパガンダを支持しウクライナへのマイナスイメージを意図的に増大させるための歌、と受け取られてしまったことは、そんな意図は微塵もなかっただけに、思いや考えをきちんと伝えられなかった自分がほんとうに情けない。そう思った人がたくさんいたとしたら、何という反動的な歌を作って歌っていたのかと泣かずにはいられなくなってしまう。青山さんが言うように、ロシア軍のしつような猛攻撃にさらされ、虐殺や拷問などの残虐行為を受けてきたウクライナの人々をまったく思いやっていない歌に聞こえる歌しか自分が作れなかったということは、ほんとうに不本意なことで、あまりにも残念でつらすぎる。
 ぼくはプーチンやロシアの軍部などまったく支持していない。でもそのことはちゃんと伝えられず、無知で稚拙で不十分な歌を作ったがゆえに、正反対のメッセージが伝わってしまったのだ。自分の思いがちゃんと届く歌をもっとじっくり、丁寧に、慎重に、そしてしっかりと勉強して作るしかない。」
というものでした。中川さんは今後はこの歌を歌わないことを表明されました。中川さんは私などからの問題提起にきちんと向かい合ってそのような結論を出してくれました。そのことをとてもうれしく思います。その事実を皆様にもお伝えしつつ、この間の経緯と問題を知っていただくためにも、当分元の文章を以下に掲載したいと思います。上記をご理解の上、お読みいただければ幸いです。(2024年3月16日)



(元の文)

私は最近になって知りましたが、フォーク歌手の中川五郎さんが昨年2022年6月より「パリャヌイツャ」という歌を作り歌っています。この歌のタイトルにもなり、歌詞の最初の部分に出て来る「パリャヌイツャ」とはウクライナ語でパンを意味する言葉ですが、この言葉がロシア語を話す人には発音が難しいということで、ウクライナにおいてロシア語話者を炙り出すために使われて、ちゃんと言えなかったらロシアのスパイとみなされ敵だと決めつけられたと歌われています。

そもそもロシア軍による無法で非道なウクライナ侵攻を受けて、ウクライナを題材にしてなぜこのような歌を作ったのかがどうしても理解できません。歌の後半には関東大震災時、朝鮮語の話者を炙り出す言葉「十五円五十銭」が出てきて、朝鮮人の虐殺を非難する中身となっています。その後半部分と対をなす前半にわざわざウクライナのことを持ち出してきたということは、明らかにウクライナを批判するためなのでしょう。

まず事実としてウクライナにおいて、このようなロシア語話者への差別や弾圧は基本的に存在していません。ウクライナのキーウ国際社会学研究所が2022年5月19日〜24日に行った世論調査では、回答者の93%が、ウクライナにはロシア語話者への体系的弾圧はないと回答しています。とりわけ、民族的ロシア人であるウクライナ国民の間の85%、ロシア語話者ウクライナ国民の間の90%がそのような「弾圧はない」と回答しています。そういう事実を無視してウクライナにおけるロシア語話者への弾圧を持ち出しているのは、意図的にウクライナを貶めるためとしか思えません。

ロシアは「ロシア語話者がウクライナの民族主義者たちに迫害されている」としてウクライナへ侵攻しましたが、むしろ2014年以降ロシアに支配されてきたウクライナの東部地域ではウクライナ語が厳しく制限され、弾圧の対象となってきました。そして2022年の侵攻直後に、ロシア軍が残虐な拷問や虐殺を繰り返したキーウ近郊のブチャなどでは、まさしくウクライナ語狩りが行われウクライナ語を話す住民が虐殺の対象となりました。

さらにロシア軍に一時占領されていたウクライナの東部や南部に暮らすロシア語話者は、ロシア軍に抵抗し続け、その後のウクライナ軍による解放に歓喜していました。ウクライナのロシア語話者がウクライナ側に弾圧されていたとしたら、このようなことにはならなっかったはずです。中川さんはどうしてこれらの事実に目を背け、未だにこの歌を歌い続けているのでしょうか。どう考えてもこれは確信犯的にプーチン大統領の歪んだプロパガンダを支持し、ウクライナへのマイナスイメージを意図的に増大させるためとしか思えません。

「パリャヌイツャ」の話は、考えられるとすれば、ウクライナ侵攻直後にゼレンスキー大統領を暗殺するため首都のキーウに浸透した、ロシア軍のゼレンスキー大統領暗殺部隊や破壊工作員を炙り出すために行われたことかもしれません。しかし仮にそうだとしても、侵略にさらされたウクライナの必死の防衛と、震災時に朝鮮人を虐殺することにつながった言葉狩りとを並列に並べて表現することは、あまりに本質を無視したものです。

歌を通して長年反戦平和と愛の大事さをアピールしてきた中川さんの今回の歌は、非常に残念としか言いようがありません。これは中川さん個人だけの問題ではなく、この歌を聴いた人々が何の疑念を感じないことの方が大きな問題ではないかと思います。ロシア軍のしつような猛攻撃にさらされ、虐殺や拷問などの残虐行為を受けてきたウクライナの人々を少しでも思いやることはできないのでしょうか。とてもとても残念です。
                        (2023年11月29日)

チェチェン連絡会議 代表 青山 正




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