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記事一覧
小説 カフェイン part1
風呂桶はノアの箱舟か、それとも棺桶か。
夜更け、微妙にオールドファッションのチョコがけが食べたくなったがそれはスルーするとして、ドーナツの穴は爆発しないためだね。チュロスがぎざぎざなのもそうなら。
ドーナツを最初に作ろうとした人は爆発と闘いながら意地で調理していたのか。
台所ボンボン爆発、生卵レンチンでボーン。黄身に楊枝で穴をあけておけばいいらしいですよ。イッツオーケー、伊東家の食卓でやってた?何
小説 カフェイン part2
カフェインにクリープハイプの鬼のPVを見せられた時、出演しているかわいい女の子がきれきれのダンスを披露していてクールだと思った。
カフェインは真似して踊っていたが彼女の30パーも動けていなかった。
「津田沼の六畳間って同じ千葉県じゃないっすか、ひゃっほい、この津田沼って、京成津田沼ですかね、JRの津田沼ですかね?総武線かな、新津田沼も使えるし、パルコあるしな。あぁ松戸の唄ってないのかなぁ。地味だも
小説 カフェイン part3
自殺した友人のノートを何冊も盗んできたのは失敗だったか。
参考になるかと思ったのだが、わたしも鬼畜だよな。墓場泥棒ってやつか。一発当てたい。金が欲しい、やっぱ金でしょ、あと名声。
男運マックス最悪なわたしはもう誰かとセックスすることは諦めた、子孫の繁栄も。
だからとにかく今は金なの、信じられるモノも先立つモノも地獄の沙汰も金次第だから。
みんな気が狂うとか自殺とかご愁傷様って顔しながら実は興味津々
小説 カフェイン part4
履いていたのはサルエルパンツばかりで尻のあたりがいつもぶかぶかしていた。強烈な洋服だけを選んで着ているようだった。
宇宙人の柄のパンツ、ポケットが猫の顔になっているパーカー、一見ただのボーダーシャツの胸元にはバケットの刺繍が入っていた。
「自分ネネットが好きっす、にゃーラブ。」とよく言っていたが、にゃーとは何なのかおばさんのわたしにはさっぱりわからなかったけれど。
一年ほど前からカフェインが薬を勝
小説 カフェイン part5
わたしは純粋に知りたかったのだ。
あのカフェインが死んでいった理由を。
カフェインのご霊前に祈りをささげるふりして実家に侵入。憔悴しきっているお母さまをだまし込んであいつの部屋に入って、頑張ってどっさりノートを盗んできたのは分析するため。死にゆく気分はどんなかなって。
それをもとに文章を書いて、小説とかにして成立させる。それをどっかの文学賞に投稿して金を貰いたいだけ。で、先生になりたいだけ。
この
小説 カフェインpart6
革命家はアディダスを着る
池田 千穂
キューバの革命家、前議長カストロ氏が九十歳で逝ったのを知る直前、僕はミカとマックでだべっていた。
ジーンズのポケットの中で震える赤いスマートフォンに気をとられ、持っていたコーヒーの紙コップを落としそうになる。
ニュースの写真のカストロ氏の痩せた顔と鮮やかなスカイブルーのアディダス社の三本線ジャージが対照的だっ
小説 カフェイン part7
「この前ガスパニックっていうクラブで踊ってたら男に間違えられましたよ。白いシャツに煙草の匂いが染みついて消えなくて。いそいでトイレで服脱いで持っていたTシャツに着替えて松戸まで帰ってきたんだけど、半そでで寒かったな。でも臭いまんまじゃ千代田線乗れないと思って。
」
煙草が似合う風貌なのに一切吸わなかったカフェイン。
「体質にあわないのと口の中が気持ち悪くって一本吸うごとに歯を磨きたくなっちゃうんで
小説 カフェインpart8
いらいらどめのお薬を医者が配合した
無理矢理飲んで嘔吐したアイスの欠片
今朝、ベッドで溶けたバター
頭ん中はボーリングの球一個
せかいは全て私のもの
錯覚覚えて29のはじめ
木ノ芽時 春始まり いつも通り
待ち受けるバス
色とりどり 花咲きだす 忘れないよう
握りしめるパス
わかっている、本当は
ただ自分が弱かっただけ
この両手で投げ出した
大切なものをとりもどす
やま
小説 カフェインpart9
A4の一番大きな大学ノートにはこういったものがびっしり書き込まれている。わたしが驚いたのはカフェインがこんなにもたくさんの詩を残していたということ。あいつポエム野郎だったんだな。横書きで書かれたその詩の上にはCとかFとか書かれている、多分これはコードってやつだろう、ただの詩じゃない、これは歌詞なのだ。
ノートにはチラシが一枚挟まっていた。
CDのお求めはインキョドーレコードへ、と昔の犯罪者がやっ
小説 カフェインpart10
わたしは緊張しながらいつもより若干高い声を出して尋ねた。
「私、大野と申しますが、インキョドーレコードさんですか?そちらはレコード会社さんであってますか?チラシを見てお電話しました。」
「インキョドーレコードなんて存在しません。それはおふざけフライヤーですから。」
「ン?」
「あぁ懐かしいな。真に受けられたんですね?自分は隠居堂というバンドをやっている木下と申します。そのチラシはライブ会場でふざけ
小説 カフェインpart11
「池田さんさ、曲かいてみない?」
二週に一遍、二時間ばかりのスタジオ練習の休憩の合間に
田村君は提案した。
いつもの田村君のきまぐれな発言を却下しようと
俺が口を挟もうとした瞬間、するどい視線で田村君はこちらを一瞥し、
「最近の木下君の曲マンネリ気味じゃない?俺たちももういい年齢なんだからさ、恋だの愛だの奇跡がどうのとか言っててもなーって。」
最近長年付き合っていた彼女と別れた田村君はいつもに増
小説 カフェインpart12
木下の話をきいて頭の中にパッと浮かんだのはそんな短い物語だった。つまんねぇー、こんなくそくだらないありふれた話、何の賞にもひっかかんないぜ。カフェインそうだろ?もっとへんてこで奇妙な話を読者は望んでいる。あんたとしても納得しないだろう。
カフェイン、小説書くのって難しいんだね。面白いものさらさら書けるもんだと誤解してた。わたしってば平凡な脳味噌しか持っていないよ。
五年前すでにカフェインは病気を発
小説 カフェインpart13
そういえばうちの施設の音楽教室の時間にカフェインが即興で歌をつくったことがあったっけ。カフェインの言う通りに馬場君がギターで伴奏してさ。
「タイトルは施設です。」
そのまんまじゃーんとみんなに突っ込まれていたんだけど、
「へへへ、この施設のこと唄ってんだからタイトル施設でいいじゃないですか。」ってにやにやしていた。カフェインの声は低くてハスキーだったが柔らかだった。みんなでその歌を聴きながらちょっ
小説 カフェインpart14
施設
月曜と金曜は卓球で比較的人が集まるよな
あ、窓の外は雨 台風で調子悪いかな
あぁ会いに来てくれないと寂しいよ
お愛想なんかじゃなく本心を言っているんだよ
みんなのことを思っている博愛主義者とかではなく
本当に本当にそう思っている
つらい時、誰とも会いたくないとき、行ける場所がある
君を待っている場所がある 君を待っている人がいる
どれだけ喫煙者が多いんだ この施設
そりゃストレスもある