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なぜ各論に弱いのか? 観光人材育成論②現代の課題①「「知覚」の鍛錬~序章~』

まず、前回の論旨のおさらいです。前回は下記3つのお話でした。

①    観光人材育成は、「ビジネススキル」と「商品価値を高める力」の2つにわけて考えられるべきであること

②    「商品価値を高める力」は今後ますます重要になるにもかかわらず、その教育体制は、いまだ体系だってないこと

③    「商品価値を高める力」において最も重要なことは「対象をじっくり観察すること」でそれは、「知覚を鍛錬すること」で養われていること

今回は、上記③を実現するにあたり当方が抱いている危機感を記します。
いずれもこの数年間、大学生や観光振興に携わる20代の若い方と教育活動を通して接してきて抱いている印象で、以下の三点です。
1 概論は知っているが、各論が弱い
2 対象をしっかりと観察しない
3 自分の考えを仕事に活かしてはいけないと思い込んでいる

今日は、1「概論は知っているが、各論に弱い」について、少し詳しく述べていきます。

「概論は知っているが、各論が弱い」
〇事象
たとえば習ったこと、本で学んだことを、実践していない。
〇原因
概論は、「大雑把」だから概論でありますが、そこから学んだことを「実践」するには、概論で語られている大雑把なことを現実の諸問題に当てはめて整理するプロセスが最初に必要になりますが、このプロセスがない。
原因として考えられることは様々あります。
■概論を伝える側の問題
・概論は概論であって、現場での実践時に役立たなくてもいいと考えている
・伝え方として「例」を挙げていないので、芯を食った理解や実感が得られない
■習う側の問題
・概論をわかったつもりになっている
・概論を自分の関わる問題に当て込めて考えていない
〇改善
■伝える側において
①そもそもの有用性を疑う

まずその「概論」の現場での有用性を疑ってかかる批判的姿勢が必要だと考えています。つまりこれは、私などもよくあることなのですが、概論の生まれたプロセスにほころびがあることが後から見つかり、「あれ、これって正しくないかもしれないな」などと気づいて、いちからやり直しをしないといけないケースです。
たとえば、その概論を築き上げている基礎資料(データから得られる「ファクト」が実は「ファクト」とは言い切れないこと)に問題がある場合です。たとえば統計データを読み込む際に、ある物事の程度を見極める時に、「平均値」と「中央値」とのそれぞれの有用性を意識せず、本来は「中央値」を使うべきなところを「平均値」を当てはめて語られた結果、誤った概論が成立してしまうことなどです。

②聞く側の身になる

これはどの世界でもそうですが、「伝えたから終わり」という「読み手・聞き手の存在を感じない」でアウトプットすることしか伝える側がしないケースです。
これは、一般社会でも多く見られるのではないでしょうか?「概論」とはそもそも具体性のある個別事象などをおしなべて見渡し、それを編集して、一段高いレベルに揚げて抽象化して整理して体系化して伝えるもので、概論ならではの価値もあるのですが、悲しいかな、よくできた概論は、それだけでは、抽象化されればされるほど、その元となった個別事象の生き生きとした姿が消えてしまう性質を持っています。
ですから、伝える側は、その個別事情までもきちんと知っておいて、概論を伝えるには、例をひとつふたつ出しておくことで、聞く側の理解を深めるスタンスが必要かと思います。
さらに一段進めれば、「聞く側のおかれている状況に則して、当てはめられるように示唆すること」かと思います。集団授業ではできず、個別授業などは、本来この価値を最も発揮できるスタイルかと思います。

■習う側において

①    なぜ?を三回繰り返す
概論で語られていること、その背景および根拠を想像することを習慣化することです。どうしても我々は「わかったつもり」になりがちです。そのほうが話は進みやすくなり、自分の「脳」も疲れない(笑)。しかし、気にしておきたいのは、「話が早く進む」「脳が疲れない」の両方とも、多分30年前と比べると良かれ悪しかれ増長していることです。これは皆さんも実感できるのではないでしょうか?「情報入手の便宜性」が高まっている現代のIT社会において、「思考」より「検索」。「一から作る」より「コピペ」。になっていることを自分の能力を高めるにあたってネガティブに感じられれば、ふと立ち止まり、「なぜ?を三回繰り返す」必要性に目が向くかと思います。なお、この問題は深刻な要因だと思いますので、別の機会に大きな章を作って、改めて掘り下げて記したいと思います。
また、「なぜ?」と問う際には、哲学的手法として、デカルトの「方法的懐疑」、またはソクラテスの「産婆術」などを事前に学んでいて、好みに応じて採り入れるのも楽しいはずです。

②    「好きか」「嫌いか」など自分に問いかける
最も有効なのは、それぞれ得た情報に対して自分の態度を表明することです。これはゲーム感覚でやってみると楽しいのでおススメします。「好き嫌い」ではなく、「賛成」「反対」でもいいですし、「良い」「悪い」でも同じです。但し、後に別章で触れると思いますが、できれば「良い」「悪い」は最初は使わないほうがいいかと思います。なぜなら、「良い」「悪い」を考えることとは、実は自分の中から湧き上がる純度の高い意思ではなくて、自分が無意識下でとらわれている世の中の在り方などに影響されているからです。この世の中の在り方は、人によれば「社会」と考えたり「世界」と考えたりすると思いますが、ここでは、単に「世の中の在り方」とだけ言っておきます。ゲーム感覚で、一日に10回だけ、見聞きしたものに対して「好きか嫌いか」自分自身に問いかける。
そして、たとえば印刷されたものだったら、「好き」にはイエローマーカー、「嫌い」には、ブルーマーカーなど引いてみると、あとで、「好き」な部分だけが一目で見られるので、段々面白くなってのめり込んでいくかもしれません。

今日はここまでです。
次回は、「対象をしっかり観察しない」について記します。

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写真は飯田豊一さん撮影 福岡県柳川市、中山の大藤(2022年4月21日撮影)

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