(50)日のエヌー

【3日目】
東京・神奈川に40歳以上の男性がこれだけアプリに登録していて、恋愛してみたいと思う人がこれだけ少ない事にC子は驚き、落胆している。
長身で太っていない男性は、C子の最も重視するところだ。普通体型の申告は、ほぼぽっちゃり。女の巨乳申告は、ただのデブだと思って間違いない。
シンパパは未婚女性を避けるし、きちんとした勤めの人は、C子のような不安定職を相手にしない。
さらに一見普通そうな人でも、いざメッセージの交換を始めると、意思疎通が全く困難な場合もある。 
そんな人たちでもC子よりも2倍も3倍も年収がある事に本当に呆れてくる。この日本は一体どうなっなるのだろう。

【4日目】
相手からいただくアブローチはほぼ無視。時々70歳以上の方からアプローチをかけられるが、C子にメリットはない。だって、運命の人と恋愛がしたいのだ。

C子には、2023年の秋頃から好きで、一瞬心の距離も近付いた若い男の子がいた。とにかく仕事が完璧で判断力も気遣いも完璧で、絶対に嘘をつかない人だった。最後に話をしたのが、2023年の年末。2024年も変わらず会えると思っていたけど、彼は突然いなくなった。C子の目標は仕事を辞める時に、彼に想いを告げることでもあった。でも、もうそれは叶わない。仕事の関係上の付き合いで、個人的な連絡先を交換した訳でもない。恋をして交際というカタチを選ぶのであれば、新しく出会うしかないのだ。

身長175cm以上、太っていない、ちゃんと会話が成立する、年相応の知識と落ち着きがある、個性的な女性も受け入れてくれる器の広さ…。そんなに難しい条件なんだろうか? しかし、C子の年齢を考えると難しいのだろう。C子が年齢より若く見える事は関係なく、見られてるのは実年齢なのだから。

C子が望む条件で検索しても、100人程度の候補男性が出てくる。プロフィール写真にセンスがないのは、問題外だとC子は思う。風景写真やペットの写真で誤魔化すのも有り得ない。自分がどう見られたいのか、どんな人物なのか知られたいと望んでいるとは全く思えない。つまり、ありのままの自分を受け入れてもらえる女性が世界に存在すると思っている、おめでたい思考。

C子は盛り過ぎてない、ナチュラルに可愛い決めの1枚をプロフィールにしている。第一印象がどれだけ大事かは、仕事上でも良くわかっている。サブ写真も何パターンかのナチュ盛りと愛猫、そして自分の撮った気に入っている風景写真。
アプリで必要以上に自分を良く見せるのは、自殺行為だ。実際に会ってもイメージとのギャップがあってはいけない。それに、誰だって気に入っている異性には、良いところばかり見せようとしてしまう。C子は、自分の個性の強さを自覚している。それを隠してはいけないし、出し過ぎてもいけない。嘘をついても仕方ない。水商売をしている事は、実際に会ってから直接伝えればいい。水商売と言っても、C子はプライドとプロ意識を持っていて、後ろめたい事は何もないが、それを先に告げてマイナスな印象を持たれるメリットもない。

検索に出た男性の中に、1人だけ気になる人物がいた。それが、N男だった。シンプルだけど、雰囲気のわかるプロフィール写真、178cmの高身長、自己紹介から伝わる穏やかな印象。彼女いない歴5年、死別…。つまり5年前に妻を何らかのかたちで亡くし、それから5年。これから人生を共にするパートナーを見つけたいのだろう。
イイネをしてイイネが返ってくるとは限らないが、行動しなければ何も始まらない。
C子は、イイネを送った。メッセージは付けないシンプルなイイネのみ。
Nからは、すぐにメッセージが届いた。

「はじめまして。N男です。」
「よろしくお願いします。」

アプリで返信の速さは大事な部分だ。 
C子もすぐに短く挨拶を送った。

まだC子は何も知らなかったのだ。
死別の重さ、誠実な人柄であっても最期には自分の事を優先する人間がいる事、C子自信の“穴モテ”力。

実際に会うまでは何もわからない。メッセージの段階で、相手を好きになる事もない。つまりC子は、期待なんてしていなかった。そもそも誰にも期待なんてしていない。すぐに会っても、時間をかけてから会っても、変わりはないと思う。テンポは相手に合わせよう。返信が来なくなる事も、C子が返信を億劫に思ってしまう事もある。

とにかくN男は、アプリ上ではC子を人間として認識してくれたのだから、何かしらの縁はあるんだろう。


読んでくださって、ありがとうございます。
私が飽きるまでは、続きます。

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