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マサイにとって一度結んだ友情と信頼は永遠だ。~その①~マサイの伝統文化体験スタディツアーを始めたわけ

この世に残された最後の楽園

「マサイの伝統文化体験スタディツアー」を長年の親友であるマサイ第二夫人の永松真紀さんと、その夫でマサイの長老のジャクソンさんと共にやっている。このツアーで行くジャクソンさんの村は、私は数えきれないほどの回数で訪れているけど、最近ますますこの村が好きだ。大袈裟に言うと、この世に残された最後の楽園とはこのことか、とつくづく思うほどである。ここに一歩足を踏み入れて、ほんのわずかであってもその生活の中に流れている大地や命との確かな繋がりを経験すると、どんな人であってもそこから先の人生の何かが変わるのでは、とも思う。だからそれを少しでも多くの人々に経験してもらいたくて、この運命共同体のような3人で、それぞれの長年の知識や経験を活かして、プログラムを作っている。

何度もできるツアーではなく、年にほんの数回、大切にやっているツアーだ。私と永松真紀さんの、30年以上に渡るアフリカでの暮らしと仕事の中での、集大成とも言っていいようなツアーではないかなと思っている。

ツアーを作り始めたのは1998年~2000年ごろだった。

実はこのツアーをやり始めた一番最初は、1998年~2000年前後くらいにさかのぼる。なんと、まだジャクソンさんと出会うよりも前の話だ。(その頃のジャクソンは、ガチの戦士修行の真っ最中の時期だ!ジャクソンさんは、戦士修行でのライオン狩りも含めて、これまで7頭のライオンを倒したことがある正真正銘のマサイの勇者である)

エウノトの儀式のあとに戦士の象徴だった長い髪を剃って大人になったときのジャクソンさん。2003年12月

最初は、私が取材の仕事を通じて親しくなったあるマサイの青年と共に、ツアーの構想を作って下見を繰り返し、コミュニティの人々と話し合い、長老たちからも理解と許可を得て、25年くらい前から細々とお客さんの案内をはじめた。大自然の中でキャンプをして、マサイの彼らと共に自然の中を歩き、伝統の知恵を教えてもらい、深く交流をするプログラム。このマサイの青年が、のちに、ジャクソンがリーダーをつとめるマサイの戦士の修了式であるエウノトという儀式を紹介してくれた。そうやって私たちは出会ったのだ。

その運命の出会いのきっかけを作ってくれた恩人のようなマサイの青年は、それから少しして急逝した。まだ20代だった。彼は他の人たちと比べて体格は小柄で、幼い頃の病気により障害を負っており、身体も弱く学校には小学校しか行けなかったが、驚くほど知性が豊かで、理知的だった。彼とは気が合い、様々な活動を共にした。ナイロビに出てくるときにはバケツに入れたハチの巣をお土産に持ってきてくれて驚かされたり、私の名前を編み込んだマサイビーズのブレスレットを村の女性たちが作ってくれたりした。

彼と彼のコミュニティとの付き合いにおいて、私はだんだんとマサイについて知っていった。「マサイ」と一言で言っても、そこには様々なグループがいて、それぞれのグループには多様な違った状況があるということ、そして、暮らしの事情も違うということも。

ケニアに来る観光客の多くがサファリのついでに行くマサイ村

マサイというのは、おそらくアフリカの中で最も名前の知れた民族ではないだろうか。しかし、マサイというのが実際のところ、一体どんな民族なのか、その伝統文化とはどのようなものなのかという詳細を知る人は少ない。

ケニアの観光の世界では、マサイがまるで見世物のように、観光客にジャンプを披露したり歌を歌ったり写真を撮られたりしてお金を稼ぐ「マサイ村訪問」というオプショナルツアーがあって、観光客からはなかば蔑みのニュアンスも含んで「観光マサイ」などと言われたりしているが、それがどのような事情のもとに発生していったのか、少数民族であるマサイがケニアの社会の中で立たされている難しい状況なども、私はマサイの友人たちから教えてもらう様々なことから次第に理解していくようになった。

観光客が訪問するマサイの村は、そのマサイのコミュニティが生き抜いていくための究極の戦略として、「未開の部族を見たい、写真を撮りたい」という観光客の要望にこたえてその代わりに現金収入を得る方法を、割り切って選択している。だから、1日に何組も、何十組もの観光客のグループが訪問する村もあり、観光客を喜ばせるために飛び、写真を撮られ、家の中も見せ、ビーズのアクセサリーを売る。

そんな「観光マサイ村」を訪れた観光客たちは、たった30分程度の訪問の中での限られた経験から、彼らのことを「欲にまみれた堕落したマサイ」と揶揄する人もいたり、「彼らは客に見せる時だけマサイの格好をしているが、あとで普通の服に着替えてバイクにも自転車にも乗り、腕時計をしている」などと声高に言う人もいる。

そんな観光客の声を聞くたびに、私は胸を痛めた。たった30分の訪問で、マサイの何がわかるというのか。観光客にとって、マサイ村を訪問するのは動物が活発ではないサファリのすきまの時間帯であり、サファリで撮りためた動物写真にさらにマサイを加えるためにわずかな時間で訪問する。マサイの伝統文化や歴史、マサイが背負ってきた歴史的な事情、現代の事情にいたるまでの話を、丁寧に解説している時間もないし、そもそもそこに観光客たちの興味は一切ないことが多い。

ライオン、チーター、象、そしてマサイ?!

さらに、少数民族マサイにとっては非常に困難な社会事情がある現代のケニアの現実の中で、彼らマサイ自身のせいではない理由で、伝統的ななりわいである牧畜生活を維持することができない困難が押し寄せている。牛を十分に飼育するための広大な自然が失われたなら、現金収入が無ければ生き抜いていくことができない。それならば、観光客に接触するほんのわずかな時間の間に、少しでも収入を伸ばすためのありとあらゆる努力を彼らはするわけだけれども、そこにある深い事情まで思いをはせることもなく、マサイの写真を撮ったら次はライオンやチーターや象を、と、それが一般的であるケニアの観光のありかたに、私は深い疑問と、虚しさを感じるようになった。

そもそもが、ケニアを訪れる多くの観光客の目玉になっている動物サファリ、誰もが驚嘆する豊富な野生動物や自然そのままの生態系を体感できる有名なマサイマラ国立保護区など、多くはマサイランドにあり、マサイたちの生き方そのものがその生態系を守ってきた。しかしマサイたちの財産であるそんな大自然は、動物保護の名目で彼らのもとからは失われ、保護区となり、彼らの居住は許されなくなった。彼らの文化的価値が正当に認められないままに、自然や動物たち、広大な土地などの彼ら自身の民族的財産は、搾取され、生活の変化を余儀なくされている。

だけど、私が出会ったマサイの友人たちとそのコミュニティは、そんな観光客からの誤解や、世間からの蔑視、不当な扱いなどにも揺るぐこともなく、彼らの中にしっかりと育まれているマサイ的価値感や精神性を持って生きていて、そのあまりのゆるぎなさにいつもハッとさせられてきた。

彼らが示してくれたのは、世間がどうであれ、世の中で何が起きていたとしても、マサイであることを何よりも誇りに思い、そしてマサイとしての生き方を貫き続けるということだった。そして、私自身にも与えられた人生の宝は、「マサイにとって一度結んだ友情と信頼は永遠」ということを、常日頃から何度も何度も、実感させてもらい続ける稀有な経験だった。

その友情と信頼に、私自身も精一杯応えたい。

激動の時代に何を伝えるのか

世の中は激動の時代で、様々な価値観が錯綜しているが、これほどまでに確かなものを、何とかしてできるだけリアルに伝え、それぞれの人生の中に良きものを取り込むだけの経験となる機会を作っていきたいと、心から思っている。

私がマサイの伝統文化体験スタディツアーを共にやらせていただいているマサイの長老ジャクソンさんと第二夫人永松真紀さんの村は、観光客がふらりと通りがかるような場所ではなく、牧畜民マサイの生き方を通常の生活の中で維持できている様々な好条件に恵まれた地域で、牛と共に自然の中で生きる暮らしがいまもまだ続いている村である。

ここで、彼らの自然の暮らしのリズムを経験し、その空気に触れ、そこに流れる究極の調和に身を任せてみてもらいたい。

マサイの、自然との関わり方に触れると、自然の中の様々な要素、空や風や月や太陽や雨、昆虫や植物や野生動物たち、そしてその大きな輪の中にいる自分自身を、きっと感じることができるだろうと思う。

これから何回かの連載で、マサイの伝統文化体験スタディツアーにまつわるエピソードを、不定期で書いていきたいと思う。興味がある人は読んでいただけると幸いだ。

(マサイ連載、次に続く。)


★マサイの伝統文化体験スタディツアー2024年の日程★

マサイの伝統文化体験スタディツアーは、永松真紀さんと早川千晶の様々なSNSでそのときどきに日程をお伝えして、参加希望者にはメッセンジャーの参加者スレッドで詳細をお伝えしています。SNSで日程を確認して、永松真紀さんもしくは私にメッセージをください。

現在設定のある2024年の日程は以下。事前レクチャーをナイロビで午後5時から行い、その後、ジャクソンさんの村に2泊3日のキャンプをします。

●2/1 レクチャー & 2/2~2/4 マサイ村
●2/23 レクチャー & 2/24~2/26 マサイ村
●3/7レクチャー&3/8~3/10 マサイ村
●3/14 レクチャー & 3/15~3/17 マサイ村
●9/21 レクチャー& 9/22~9/24 マサイ村

★連絡先★

永松真紀さんfacebook
https://www.facebook.com/maki.nagamatsu.1

早川千晶のfacebook
https://www.facebook.com/chiaki.hayakawa1

永松真紀さんホームページ「マサイ村へようこそ」
https://masailand.com/


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