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新築京町家「京つむ木」現場見学&講演会 〜自然の力を活かした寒さ対策〜

株式会社八清が手がける新築京町家プロジェクト京つむ木
現場見学会に参加してきました。
京町家の数が減りつつある京都で、京町家を新たにつくる取組です。
昔ながらの伝統構法で4軒の住宅が建てられています。

建築中の現場見学会と、伝統構法の家にお住まいの方々による講演会が開催され、
実際の住み心地を、説得力ある形で明らかにしてくれました。

今の季節柄もあって、冬の寒さに関するお話が多く、
個人的にも関心があったテーマなので、
講演会のお話を寒さ対策の視点でまとめてみました。

自然の力を知り、活かすことで快適に過ごせる

実際にお住まいの方々それぞれ、冬でも快適に過ごされているようでした。
それは自然の力を知った上で、上手に活かしているから。

ただ、何を持って快適とするか、にもよります。

快適さって何だろう

お一人の方は、薪ストーブで家全体が暖かくなるという理想的な暮らしぶり。

もうお一人の方は、なんと、家全体の暖房がファンヒーター1台!
とても暖かくはならなくとも、最低限寒くはなく、
温まれば冷めにくい、温度変化がゆるやかな住まいなのだそうです。

暖かいほど良いという訳ではないのかもしれません。
お話を聞きながら思い出したのが、ヘルシンキに行った時のこと。
室内はどこも「寒くない」温度で、「暖かい」とは感じないのですが、
暖房がついていることに気づかないくらい自然な室内環境でした。
(日本は暖房も冷房も効きすぎの場所が多い気がします)

お二方に共通するのは、家全体が同じ温度で、やさしいぬくもりがあること。
よくある「廊下だけやたら寒い」ということがないそうです。

現在の日本で主流の「快適さ」の感覚とは違うと思いますが、
伝統構法の家の快適さも、それはそれで良いと思いませんか?

伝統構法の快適さの秘密は自然の力

伝統構法は自然素材を使って建てられます。
お話によく挙がったのが、木と土のこと。

木材は保温力があり、触れると温もりを感じます。
冬でも、ヒヤッとはしません。

土壁も保温力があり、さらに外気と室内を遮断してくれる力も持っています。
工業的な新建材などで建てられた家だと、
室内にいても壁から冷気が伝わってくることがありますが、
土壁はそれを防いでくれます。

今回の講演会場である新築京町家の室内も、
床は無垢の杉板、周りはすべて土壁でした。
小型の電気ファンヒーター2台で、寒くない。普通に過ごせました。
そして、杉板の床に直接座る心地よさ!何時間でも座りたい。

さらに、木も土も湿気を吸ったり吐いたりする性質があり、
自然と湿度が調整されて、結露やカビと無縁の生活なんだとか!

また、大掛かりな機械仕掛けではないので、
「●年で修理や交換」ということはありません。
長い目でみてコストが抑えられるし、サステナブルです。

自然の力を活かす作り方と住まい方

木や土といった優秀な素材も、どう活かすかで効果は変わってきます。

まずは、作り方が重要です。
土壁が外気を遮断するといっても、隙間があっては台無し。
木も土も、温度や湿度によって膨張・収縮するので、隙間ができやすいのです。

京つむぎでは、素材の変形が起きても隙間ができないように、
ディテールの工夫がされていました。
一手間かかりますが、これで室内環境は大きく変わるはずです。

窓はペアガラスにして、土壁以外の部分からも外気が入らないように。
柱や壁は伝統的な自然素材を使いながら、現代の技術製品を合わせるという、
伝統のアップデートがされているわけですね。

そして、家が建ったら、住まい方が重要になります。
自然の力を読みながら、試行錯誤も重ねて快適になる方法を
探っていらっしゃるのが楽しそうで印象的でした。

先ほどのファンヒーターも、置き場所によって効き方が違うそうで、
どこが一番効くかいろいろ試した結果、少ない数の器具で暮らせているそうです。
夏には、どの窓を開けたら風が通るか把握していて、涼しく過ごせるとか。

作ることも、住まうことも、手間はかかりますが、
そうして得られる心地よさは、自然体でやさしいもの。
改めて、自然の力って、先人の知恵って、すごい!と実感しました。

伝統構法は日本のサステナブルデザイン

上記まとめの中で、サステナブルという言葉を、ふと使いました。
持続可能性とか言われますね。
これを切り口に、少し大きな視点で伝統構法を眺めてみましょう。

昨年、7名のフィンランド人デザイナーのトークイベントに参加した時のこと。
7名のほとんどが、今気にしているキーワードとして
「サステナブル」を挙げていました。
そして、プロダクトやインテリア、建築などにおいて実践されている
サステナブルデザインの事例をいくつも見せていただきました。

日本では、言葉として耳にする機会は増えたものの、
暮らしの中にまではまだまだ根付いていません。
でも世界は確実にサステナブルの方向に向かっているのです。

そんな視点で見ると、伝統構法はサステナブルデザインそのものです。
自然の力を最大限に活かす工夫で、環境に負荷をかけない暮らし。
古いようでいて、一周まわって今、新しい流れにつながっています。

伝統構法が再び主流になることはないかもしれませんが、
そのエッセンスは様々な場面に生きるはずです。
私たちは伝統構法の中に息づく日本のサステナブルな心を学び、
アップデートしながら活かしていく段階にいるのだと思います。
そういう意味でも今回の講演会はとても貴重な機会となりました。

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