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幻のインドりんご

こんなにリンゴが甘くなったのはいつ頃からだろうか、おかげで私はリンゴをよく食べるようになった。

と言うのは子供の時からリンゴとイチゴが苦手で、これまで殆ど食べてこなかったからである。

どちらも赤くていかにも甘く美味しそうに見えるのに、食べると期待に反して酸っぱいのでがっかりさせられた。

正確には甘酸っぱいと言うのが正しいかも知れないが、私は少しでも酸味があるとだめなので、果物は柿やバナナのように酸味がないものばかり食べていた。

そんな中で唯一例外だったのが「インドりんご」である。

小学生の時病気で入院している叔母のもとを訪ねると、飾ってある見舞い品の果物籠から珍しいリンゴを一つ取り出して「インドりんご、美味しいよ」と手渡してくれた。

当時リンゴと言えば国光や紅玉が主流であったが、それはこれまでに見たことのない黄緑色をした大きなリンゴで、匂いも普通のリンゴとは違う魅惑的な芳香を放っていた。

家に帰り早速食べてみると、確かに全く酸味がない甘くて美味しい南国のフルーツのようだった。

本当は国産だったが何も知らない私は「さすがインドのリンゴは違う」と大いに感動していた。

すっかり「インドりんご」の虜になった私は祖母にねだって幾度か買って貰ったが「インドりんご」は近くの果物屋さんでは余り扱っておらず、デパートか繁華街の大きな店まで行かなくてはならなかった。

当時はきっとお使い物にするような高級フルーツだったのかも知れない。

そんな「インドりんご」も今や食べるどころか目にすることもなくなり、私には幻のリンゴとなってしまった。

                      イラスト(水彩)    






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