人は生まれてから最初に刻まれた記憶は何歳ぐらいの時だろうか。

突然こんなことを思ったのは毎日新聞で山田詠美さんのエッセイ「私のことだま漂流記」を読んだからである。

山田さんは二歳の時の記憶があると書いているが、なかなか二歳の時の記憶を思い出すのは難しいのではないだろうか。

私も霧がかかったような記憶の底にぼんやりと思い浮かぶことは二つ三つあるにはある。

しかし山田さんも述べているように、それが全て実際の記憶かどうか後で誰かから聞かされたことが一緒になって自分の記憶と思い込んでいるのか自信がない。

三歳になれば断片的でも、いくつかの場面や出来事をはっきり覚えているので、やはり二歳の記憶というものはかなり曖昧なものなのだろう。

その証拠に白いスカートの母の膝に座っている自分は思い出せても、肝心な母の顔がどうしても思い出せないのである。

それが唯一母の記憶だというのに。

だから二歳の時に亡くなった母の顔を私は知らない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　イラスト (色鉛筆)