信用できる男、マイク・フラナガン監督。



たぶん2018年頃、NETFLIX映画『ジェラルドのゲーム』を観て感激。以来、色んな相手と映画の話しになるたびに勧めています。傑作!

だけど、周囲から「知ってるよ!」とか「観てみたよ!」という話しはなかなか聞かない。観た人からも特に大きなリアクションももらえない...ということは、どうやら僕の中のごくごく個人的に刺さってしまった映画体験だったのだとは思います。まあそういうことってあるよね。しょうがない。
しかし、同じくNETFLIXの最新ドラマ『真夜中のミサ』が、もういよいよ凄まじかった。これはやはり今のうちに「マイク・フラナガンマイク・フラナガン!...ってあいつ言ってたな」という証拠を後世に残さねばなるまいと思うのです。

『ジェラルドのゲーム』は、ベッドの左右の柱に両手を手錠で拘束されたまま、身動きが取れない状態になってしまった女性のサバイバル・スリラー...だけどどっこい、これは只の“きっかけ”であって、そこから描かれていくのは、繊細な人の心のドラマ。極限状態に追い込まれたことで生まれた奇妙な“対話”で、徐々に見えてくる過去のトラウマと本当の気持ち。

スリラー映画は、「恐怖」という気分をハラハラドキドキを楽しむ為に作られるものではあるけれど、この映画における「恐怖」は、もうちょっと深くて普遍的。蓋をして気が付かないフリをしていた自分と向き合うことの怖さについて語られているように思いました。
前述したように、ごくごく個人的な映画体験だったとは思うのですけど、普段あんまりスリラー映画に触れない人にほど出会ってもらえたらいいなと思う作品です。痛ましい、だけど逞しくて美しい脱出劇、気になった方は是非観てみてください。素晴らしいと思うんですけどねえ。

そして、これを観たことで僕は決定的にマイク・フラナガン監督作品のファンになってしまったのでした。この方の作品の丁寧さ、真摯さは、一体何なのだろう...!?と。
これまでホラーやサスペンスが好きで観てきたけど、うまく言葉に出来なかった自分の中の良し悪しの物差しが少し解ったような気がするような、大きな存在感のある作品になったのでした。

専門知識は無いし、詳しく調べてるわけでもないかな、感覚的なのですけど、僕がマイク・フラナガン監督作品を「信用出来る!」と感じている理由、大きくこの3点。

【その1】怪物と幽霊の描き分けがしっかりしてる気がする!
幽霊自体の主観で描かれるお話は除きますが、幽霊的な存在が誰にも認知されてない状態で登場するシーンが僕は嫌いです。「あ、サービスシーンだ」と感じてしまうのです。幽霊って何か訴えがあってそこに現れたり付き纏うモノな気がするので、誰も見てないのに画面に映るのはすごく変だと思うんです。だけど、怪物は別。腹が減ったり、眠くなったり、本能があったりする生きている物なので、意思を持って行動出来る存在かなと。誰にも気が付かれずいること自体もサスペンスになるので良いと思います。
マイク氏はその描き分けをちゃんと大事にしてるな〜と感じることが多いのです。そこチェックです!

【その2】演技アンサンブルを大事にしてる気がする!
具体的にこの作品のここ!!...とか言い出すとネタバレもあるし、キリが無いので割愛しますが、登場人物達の会話のやりとりをシンプルな長回しでたっぷり観せてくれる演出がこれみよがしにじゃなく、シレッと組み込まれてる印象。それから、マイク・フラナガン監督作品お馴染みの俳優さんも何名か居て「あ、この人今回はこんな役どころできた!」という楽しみも。ちょっとだけ、劇団のような、舞台のような親密な感じがする、気がする。

【その3】「悪」をぬるくせず描いてる気がする!
幽霊、怪物、悪党など、色んな「悪」を、容赦無い、対話不可能な存在に感じさせることを拘っているんじゃないかな〜と感じます。その為に、子どもでも動物でも、誰もが平等に犠牲になりうることを厭わない、といいますか。それはハードな残虐描写しちゃうぜ!ということじゃなく、あくまで物語上で逃げずに表現することを大事にしている気がします。

...以上、ちょっと何言ってるかわからないかもしれませんが、通底してるのは、マイク・フラナガン監督はたぶん、めちゃ真面目なのだと思います。ほんとに恐い事とは何か、そこに怯えつつも立ち向かうのはどんな人物か、そんなことを真正面から考え、大事に組み込みながら、エンターテイメントを組み立てていける人なのだと思います。
そして、ここぞ!というときは必ずピカーンと光らせるあの眼。なんだかレトロ。だけど異様さ、危うさを率直に届けてくれるナイス演出。ナイスアイデア。たぶん何かこだわりがあるはず。



その他、バンバン好きな作品あるので、これまでに観たマイク・フラナガン監督作品の軽い感想文。スティーブン・キング原作との相性が非常に良いのかもしれない。まだ2つくらい観れてない旧作があるので、今後ウォッチせねばと思ってます。

『ウィジャ ビギニング ~呪い襲い殺す~』・・・NETFLIXでふらりと観てしまったホラー映画。しかもシリーズ2作目(前日譚モノ)だということも知らずに。午後ロー気分だったのに、すごくタイトで魅力的な映画だったな!と思った僕は、監督名で他の作品を探ってみたくなり『ジェラルドのゲーム』に出会ったのでした。

『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』・・・ドラマ作品。子供時代に住んでいた幽霊屋敷とそこで起きた事件のトラウマに苦しむ家族の悲しくて温かなお話。各登場人物にはどんどん感情移入させられるし、かなり面白い。一番観やすくてオススメです。

『サイレンス』・・・耳の聴こえない女性ライターが侵入者と戦うサスペンス。マイク氏の作品の色々で、様々な役どころで魅力的なバイプレイヤーを務めるケイト・シーゲルさんが今作では主演なので、監督作品ファンになったなら見逃せない。

『ドクター・スリープ』・・・スタンリー・キューブリック版『シャイニング』の正統続編として制作され、マイク・フラナガン監督作品の中ではたぶん最も予算も大きいし、メジャーな作品と思います。あまり観たことないフレッシュな映像演出も入ってて素敵。子どもが犠牲になったり陰惨な出来事も起こるけど、前作にも出てくるお風呂のお婆ちゃんゴーストがダニーの能力者としての成長を示すシーンや、アブラちゃんが強すぎな点など、ちょっとしたコミカルさも差し込まれていて、あまりどんより暗い感じがしない。最後はちょっとだけ増長な気がしたけど、きっちり面白く、切ないけど希望あるお話に思いました。

『オキュラス/怨霊鏡』・・・呪われた鏡に家族を殺された姉弟が、復讐の為に悪霊に立ち向かう、そんな映画。一度、自主制作した作品のセルフリメイク版とのこと。悪霊をテクノロジーで暴こうとするのだけど、ここまでやるならどうにかなるかも?...と、なんだかワクワクする。自分の認知がぐらつかされることはシンプルだけど存分に翻弄され、怖い。リンゴのシーンが最高にゾッとする。

『真夜中のミサ』・・・最新作。NETFLIXのドラマ。アメリカのとある小さな島(架空)が舞台の、命と田舎と宗教と償いの物語。キーワード並べただけで全然うまく説明できないけど、人の弱さと、それでも奮い立ち、成すべきことを成す強さ。普遍的でヘビーで味わい深い群像劇。各話のエンドクレジットが物語とシームレスでBGMの無い演出が渋い。運命を受け入れた人々の歌声の悲しくも美しい。マイク氏がまたやってくれたぜ。

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