犬と歩けば

昨年秋から、我が家は犬を飼い始めた。名前はアロ。日々のルーティンの中に、かの有名な「犬の散歩」を加える運びとなった。たいてい、妻か僕のどちらか都合が良いほうが散歩に出る。
犬と行動を伴にしていると、普段通らない場所に足を踏み入れることがぐんと増える。茂みや、草むら、細い山道、裏道。知らなかったスポットや、いつもと違う角度の風景の新鮮さに出会える。そして、僕はつくづく思う。

「犬との散歩中に遺体の第一発見者になるの、めちゃくちゃ説得力があるなあ」と。

物騒なことを書き始めてしまったけれど、ほんとにそう思うのだ。昨年オーディブルで聴いた、宮部みゆき『模倣犯』なんかもそうだ。あれは公園のゴミ箱だったから、人通りが無い場所ではないのだけれど、犬がウーワンワンしたことが発見のキッカケになっていた。
犬のいうのは、噂通りとにかく好奇心の塊のようで、急に猛烈にダッシュしては、気になった対象物を嗅いだり舐めたり食べてしまうので、御するのがなかなか大変だ。

さて、他にもきっとウーワンからのキャーで事件発覚!という流れのサスペンスは見てるはずなのだけれど…そうポンポンと具体的なタイトルが浮かばないもんです。想像するに、こういったミステリー・サスペンスものの作劇的に「犬の散歩」というのは、自然な形で物語を動かす手助けをしてくれる、実に頼れるアイテムなのではないかな、と考えるのだった。

あくまでフィクションにおいての話をしたい。現実においてはこんなことを面白可笑しく語るのは不謹慎な気がする。だけど、そういうことが本当になってしまうこともきっとあったから、創作に取り込まれてるのかもしれない。

我が家は山の中にある小さな集落で、ぐるりと歩く道のすぐ脇には、人間の手入れではどうにもならないような蔓の這う林や、崖のようになっている場所がたくさんある。そこを通る車が捨てていくらしい、タバコや飲み食いしたゴミなどもよく落ちている。それらを犬が食ったりしないように注意しながら散歩をする。(たまには拾うけれどキリが無い。平気でゴミを捨てる奴は想像力の欠落した可哀想なヤツだと思う。)
犬を連れるようになって、そういう点でも見える風景が変わったと感じる。

そんなわけで、大変に思慮深い僕は、散歩しながらそんなことを考えてほんのりと怖くなる。犬の突っ込んでいこうとする薮。部分的に蓋の開いた側溝の暗がり。ガードレールの向こうの谷底の沢。こんなとこにいるはずもないのに。
スルーしていた、縁の無かったはずのそういった箇所々々に、僕の視線は出会ってしまうようになった。それが妙に空恐ろしい。

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