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ショートストーリー アンブレラ☔

"ねぇ、また忘れてきたでしょ。傘。
何本目だと思ってるの?''
"ごめん、あれ?どこに忘れてきたんだろう?"
"先週から梅雨入り宣言でてたよね。
もぉ、今日はわすれないでよね''
妻に朝から文句を言われ、ちょっと気分が悪い。
しかし、どこで忘れてきたんだろ?全然おぼえてないんだよな、、、

今日は金曜日。行きつけの居酒屋で一杯ひっかけていくか、、、
楽しみだな。

pm5:00  早々と仕事を切り上げて、足取り軽く居酒屋へ。
一人飲みが気楽…
2〜3杯のビールを飲み干した。
ほろ酔い加減で歩いて帰る。
その間の記憶は、ないときの方が多い。

次の朝、また妻からお叱りの一言。
"まただよね。傘、ないんですけどぉ"
"えっ?また?"   "おかしいなぁ"
そんなやりとりをした。
今日は休みだ。
昼過ぎ、ピンポーンとベルがなった。
"はーい"と妻が玄関へ行くと、若い男が立っていた。
しかも傘を5本くらい持っていた。
妻もなんだかわからずその男の話を聞いていた。
俺は、部屋に戻って、また布団にくるまった。
玄関先で、妻とやりとりをしていた。

''旦那さん、いつも俺に傘をくれるんですよ。
俺、ボクサーを、めざしてて、夜中走っているんです。 
旦那さん、俺に声をかけてきて、"自分も、若い頃、ボクサーをめざしていた事があるって、、、
お酒はいってるから、シドロモドロなんだけど、応援してるって、いつも傘をくれるんです。身体、冷やさないようにって。
この間は、コンビニで珈琲を奢ってもらって、色々話を聞いて、なんだか住んでる場所まで。
で、傘をかえそうと思って…"
妻は納得したらしく、
''わざわざありがとう"と彼に告げた。
"じゃ、俺、これで、失礼します"
と男は言って立ち去って行った。

眠気眼で妻に、 
"誰かきたの?"と問いただすと、"あなたの無くした傘、帰ってきたよ"と意味深に笑い、"どういうこと?"と俺は聞くと、"さあね"と答えた。
 
数日後、妻と一緒にテレビをみていたら、ボクシングの試合をやっていて、妻が興奮ぎみに
''傘を返しにきてくれた人だわ''と言って、はしゃいでいた。
俺はなんの事かさっぱりわからなかった。






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