あの日、私は子ども連れて、逃げて、逃げて、逃げた(3)

嘉久は飲料メーカーの営業部にいた。もともと商品開発部を希望して入社していて、食べることや飲むことに興味があった。
いつか営業部から商品開発部に異動したいとよく話していた。

結婚する前は、仕事の勉強にもなるからと言って、嘉久はよく外食デートに誘ってくれた。外食デートは一日に2、3件お店をはしごすることもある。
安くて人気のあるお店だけでなく、焼肉やお鮨の高級店に行くことも多かったため、外食代は月15万を超えることもあった。

私は薬剤師で、妊娠を機に退職したけど、当時は嘉久と同じく年収が700万近くあり、お金に困ることはなかったし、貯金もしっかりできていた。
そのため、デート代はだいたい割り勘だったけど、誕生日やクリスマスには、旅行やティファニーの指輪などをプレゼントしてくれたし、私に不満はなかった。

あの頃は、お金も時間も余裕があって楽しかったな…




「おい!なんだこれは!!」

私はびっくりして体を起こす。
理久の寝かしつけで、そのまま一緒に寝てしまっていた。
寝室からリビングに行くと、嘉久がダイニングテーブルで魚肉ソーセージをつまみに缶ビールを飲んでいた。

「よしくん、お帰りなさい。
ごめんね。理久と一緒に寝ちゃった。
今、ごはん温めるから。」

「別に無理しなくていいんだよ。
ただ、俺も疲れてて自分で食事の準備する気になれないから。
まぁ、今日は一杯飲んで寝るわ。」

「でも、さっき怒鳴ってなかった?」

「疲れて帰って来て、部屋は散らかり放題、テーブルも食い散らかしで、イラついたんだよ。
これじゃ余計疲れるよな?
なんか悪い?
俺だってイラつくことあるよ。
しかも、ブロック踏んで足の指痛かったから、どうなってんだよって言っただけ。」

ちょっとドタバタ劇みたいで、おかしい。

「うふふ。
理久もよくね、自分で散らかしたブロック踏んで、ブロックに怒ってるんだよ。
そういうとこ、ちょっと似たのかな?」

「は?バカにしてんの?
ふつう大丈夫?って心配するよね。
クソ痛かったんだけど。」

あ、やばい…
嘉久がかなり怒ってる…

(つづく)


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