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ふさわしい不倫(30・最終話)

大地は弁護士の名刺を置いて部屋を出た。
示談交渉はこの弁護士としなければいけないのね。

これじゃ、まるで、私たちは敵みたいだよ。
加害者と被害者。

私は弁護士事務所に勤務しているから、弁護士に依頼できない。
弁護士業界は狭いもので、守秘義務があると言っても、どこでどう伝わるか分からない。

示談金の相場はいくらなんだろう。
手術代は払ってくれたから、今後入院、退院後の通院費、仕事を休んだ分の給与、精神的苦痛、後遺症あたりだろうか。

感覚的には高めで500万、低めで200万、、
だけど、発端は私たちの不倫なんだし、
大樹くんからしたら謝ってほしいくらいだろう。
こんなケースの判例あるんだろうか…

慰謝料なんてお互いの同意だから、相場なんてあってないようなもの。
相場が300万でも、お金がない人は払えないので、払えるだけの金額に落ち着くだけ。

大地の父親ならいくらでも払いそうだ。
でも、本当は父親の援助は受けず、大地自身に払ってもらいたい。
大地が私をどれだけ大切に思っているのか、誠意を見てみたい気がする。

ちがうな。
大地が払うのは大樹くんのためで、
私のためじゃない。

私、バカだ。
何を期待しているんだろう。

もう大地とは会えないだろうな。
一番悪い状況になってしまった。

私は子どもを傷つけてしまった。
実刑になれば子どもの未来も潰してしまう。

私がやったこと。
不倫はやっぱりダメなものだった。
不倫はただ腐った横道だった。

窓の外の木が風で揺れている。

いつか大地に「何で私と会うの?」って聞いたっけ。
いつもの大地のノリで、俺、性欲強いからって言うかと思ったのに、「俺と陸を受け入れてくれたから。」って言ったよね。

育児の孤独。

私にももちろん不倫への抵抗があって、いつ大地と縁を切るか悩んでた。
だけど、あの時、大地の寂しさ受け止めるって決めたんだ!

窓の外の木の枝の、
その先の枯れた葉が飛んでいく。
またあの少女が心に乗り移る。

ちょうど看護師さんが昼食を運びに来たので、売店でペンと手紙を買ってきてもらいたいとお願いした。

あの少女が誰かと心を交わしたいと希望を持って書いた手紙みたいに。


大地へ

しばらく会えないかもしれないね。
何年も会えないかもしれないし、
お互いもう会う必要がなくなるかもしれない。
だけど、大地がどうしても寂しいと思ったとき、私を思い出したら連絡をください。
私は大地を受け入れるから。

(おしまい)




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