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大学生自転車日本一周旅二日目:千葉県庁から茨城県庁を通って宇都宮駅ヘ

本編

 野宿の日の朝は想像以上に早かった。眠れず何度も目は覚めていたが、何としてでも疲労を抜かなければと必死で寝ようとしていたためか、だんだん眠れる時間が伸びてはいた。しかし、外での睡眠に慣れればなれるほど時間も朝に近付いていく。せっかくぐっすり眠れ始めていたのに、5時過ぎに物音で起こされてしまった。人によってはこんな時間から体を動かし始めるらしい。都市の公園にポツンとテントがあったら、普通の住民は不思議に思うだろうし通報とかは勘弁だったから、人の存在を確認したらすぐにテントをたたんだ。6時ぐらいにまでは眠っていられると思っていたから、一時間睡眠を奪われたも同然。さらに、そもそも眠れていないからすっきりもしない。そんなことも知らずに陽はどんどん上っていくから、嫌でもスイッチを切り替えていく。朝ご飯にと残しておいたスティックパンを食べる。財布盗難対策の意味も込めてバッグを枕にしていたから、パンが潰れてしまい、6本ぐらいが固まって一本になっていた。必死に剥がしながら、これはやばい挑戦に足を踏み入れてしまったと今更ながらに気が付いた。こんなにしんどいのか。昨日の希望のほとんどは絶望にとってかわった。

 旅が始まる前は、房総半島にでも行ってみようかな、なんて思っていた。舐めていた。苦しすぎて早く帰ってしまいたい。もう房総半島なんて夢のまた夢になってしまった。しっかり回ろうと思ったら2日ぐらいかかっちゃう。もちろん野宿で。もう耐えられない。断念する。筋肉からのこの主張にはメンタルも賛同した。

 こんな旅やってられないよ!というわけで、千葉市からは直接茨城県庁を目指すことにした。北関東の回り方、さらには東北へのつなぎ方も決まってはいなかったから、出発前の公園で地図を広げては急いでルートを決めた。まず水戸まで行ったらそこから宇都宮へ。その後福島を目指す。そしてこの日は、宇都宮まで行って餃子を食べることを目標に設定した。

 千葉市を6時20分ごろに出発して間もなく、思いがけぬプレゼントが。なんと二重の虹。これまでも何度か見たことはあったけど、このしんどさと相まって最高にきれいだった。折れかけていた心がぴしゃんと背を伸ばした。自分で旅をするって決めたわけだし、苦しくても踏ん張らないと。

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 印西市までは広い道だった。道沿いに店もずっとあってザ・国道って感じ。きれいだったからガタガタもせず漕ぎやすい。印西まで何もトラブルはなく移動できた。朝はパンしか食べてなかったから、だんだんおなかがすいてきていた。というわけで近くにあったマックで朝食。せっかくだから、マックグリドルに挑戦してみる。個人的にはソーセージエッグマフィンで満足しているけど、うまいってよく聞くから注文してみた。あまり好きではなかった。残念。

 印西からは少し危ない道があった。大型車が通る割には歩道のない登り道。だけど、そこを何とか超えたら一面緑の田んぼ道に様変わり。快晴だったから太陽の光で緑もきれいに映えていた。ここまでは基本的に都会の景色が続いていて、ここまで田舎らしい景色は初めてだったので、東京からだんだん離れていっていることが実感していた。

 ひたすらに田んぼ道を堪能していたが、それにも終わりは来る。牛久市に入っていくと街が活気を取り戻した。そこからはあまり田舎道を通ってはない気がする。

 水戸市には昼過ぎに到着した。13時過ぎだったと思う。水戸と言えば?納豆しか出てこない。おいしい納豆が食べられる場所を探そう。しかし、そもそも納豆料理や納豆定食なんてのがあるのか?近くの店を調べてみてもおいしい納豆が食べられそうな店は見つからない。というわけでここでも妥協してチェーンの飲食店に入った。夜は宇都宮で餃子を食べるからと言い訳しておいた。

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 ご飯を食べたら、確か14時過ぎだった、宇都宮へ向かう。単純計算でも到着予定が19時に近かったから急ぐ。緊急事態宣言のせいでラストオーダーが19時30分とかになっていることを考えると、なお急がなくては。というわけで出発。ちなみに、所要予定時間の計算は基本的に1時間15㎞のペースであると仮定して行った。

 水戸と宇都宮の間には山があって、少しではあるものの登りが多くなる。時間もなかったから急いで漕いでく。最初は何とかなっていたものの、さすがに二日間も動かし続けていれば体に限界は来る。だんだんと登り切れなくなっていく。多分この時に初めて押したと思う。上り坂は旅が始まる前から恐れてはいたけれど、やはり厄介だ。疲労は溜まっていき、足がつったりもし始めた。野宿したせいもあるだろうが、早くも満身創痍になってしまった。

 そして、その山ゾーンも終わりに差し掛かってきたころだろうか。坂を上ろうとした俺の足に奴がやってきた。最初は左足のハムストリングスが攣っただけだった。動きながら改善していこうと思った矢先、右足のハムストリングスにも奴は顔を出した。これは漕げないと止まった矢先、前モモやふくらはぎにも顔を出してきやがった。しかも同時。片方を伸ばそうとしたら片方は縮む。どちらかを直そうとしたらもう片方はひどく痛むってわけ。こんなの初めてだったし、どうすりゃいいんだ。というわけでその場にうずくまって、何とか一つ一つが収まっていくのを待った。5分もたたずに治ってくれたからよかったけど、もう無理はできない。宇都宮まではまだ距離があるが、急ごうと思ってはいけない。また攣ったらもっとしんどいし、止まることが一番の時間の損失だと薄々気が付き始めていたから。

 坂は様子を見ながら押して越え、その後もリハビリと思いながらゆっくり漕いでいく。結局宇都宮につくまではペースを上げることが出来なかった。到着も予定より遅れてしまった。19時を過ぎていた。

 宇都宮には約半年前に来ていたので、駅前の景色が非常に懐かしかった。あの時は歩きで、120㎞のゴール地点だった。だから、駅から離れた餃子屋にはいくことが出来なかった。体が許さなかったのだ。今回はそのリベンジがしたかった。自転車で来た今回こそは有名な店で食べたい。体は漕ぐのを拒否していたが何とかその店まで急ぐ。ここはさすがに時間の問題もあって急いだ。

 やっとその店に到着。もうすぐ19時30分というのにまだ店の前で待っている集団がいた。少し嫌な予感がする。店の前まで行く。「本日は完売」の看板。おそらくそのグループが最後の客なんだろう。大学生の男女グループっぽい。こっちは必死に体に無理させてまでここまで来たのに、絶対に苦労はしていないだろう彼らがおいしい餃子を食べるなんて。世の中は優しくないよ本当に。ぐやしいぃ。

 もうあきらめてもいい時間だったけど、どうしても宇都宮餃子が食べたかったかっら、急いで駅前で空いている店を探すことに。歩いてきた半年前には営業自粛していた店が今回は開いていた。急いで転がり込む。ラストオーダー直前に何とかお店にたどり着けた。

 贅沢に焼き・揚げ・水の三種類の餃子を一人前ずつ頼む。時間ギリギリだったから急いでかき込む。最初の有名な店で食べたい気持ちはまだぬぐえなかったけど、腹いっぱいに餃子を食べることが出来て幸せだった。

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 この日はさくら市というところで野宿できればいいなと思っていた。そこに行く前にまずは県庁へ。記念写真を撮って少しゆっくりしていたが、これ以上漕ぐことを体が拒否していることに気が付いた。もう無理だった。時刻も20:00を過ぎている。疲労困憊。ついに心が折れてしまった。この疲労がずっとたまり続けていくのを想像できなかった。野宿でまた寝れない夜を過ごすのに耐えられなかった。

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 この日の夜は宇都宮駅から少し離れたホテルでゆっくりした。部屋があること、ベッドがあること、風呂に入れること、誰も襲ってくる気配がしないこと、虫も入ってこないこと、ちょうどいい室温に調整できること。この世は恵まれすぎている。

ルート

 (おそらく)千葉県庁からは国道16号線。八千代市の先からは印西市へ。印西市までは何号線かは分からないが大森交差点という場所まで行った時には県道4号線を走っていた。印西を超えた後は利根川を渡り、川に沿って国道6号へ。そのまま茨城県庁のある水戸市まで行った。茨城県庁からは宇都宮とを結んだ線に近い道をうまく通って言った印象。このころはiPhoneのマップが出す最短ルートで進んでいたから完璧には思い出せないけど、大体こんな感じ。


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