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[掌編]星が出会う日

琥珀色のパラフィン紙で幾重にもくるまれた星を買った。

包まれている星はランダムで、開けてみるまでわからない。私は家まで待ちきれず、その場でパラフィン紙を開いた。やがて白く輝き始めた星に、私の目はくぎ付けになった。

生命力に溢れたこの光は大鷲の心臓、アルタイルに違いない。興奮した私に、不愛想な店主が「彦星だ」と言った。「アルタイルでしょう」と答えると、彼は私が知らない天の河にまつわる伝説を話した。アルタイルには妻がいて、彼らは年に一度しか会うことが許されないのだと言う。

互いに好きで一緒になったというのに、仕事をしないことを理由に第三者から引き離されるとは気の毒な話だ。いつか私が、常にお前の側にいられる織姫を引き当てよう。

しかし星は高額な上に品薄の状態が続き、次に買えたのは一年後の夏だった。店を出て空を見上げると、天の河に雲がかかっている。インバネスに湿った空気がまとわりつき、不意に肩を叩かれて振り向けば、店主が無言で黒い蝙蝠傘を差し出した。

最近の天候は思わしくないことが多い。雲にけぶる天の河を渡るのはさぞ難しかろう。そんなことを考えながらパラフィン紙を剥がすと、星が青く輝きだした。すわ、織姫か。そう思った私の期待はすぐに裏切られた。

それは、青白く光るスピカだった。ああ、なんという乙女違い。人気の星であることは知っているし、噂に違わぬ美しさである。しかし私はどうしても、妻が不在の彦星の元へ、彼女を連れて帰る気にはなれなかった。

しばし逡巡したのち、スピカを高く放り投げた。ゆっくり空に上る青白い光を見ていると、建物を挟んだ向こう側でも、空に上っていく白い星が見える。私の他にも空へ星を還す酔狂な者がいるとは驚きだ——。無意識にその星が上る方角を目指していたら、華奢な体がぶつかった。

「失礼!」
「ごめんなさい!」

女性の声が重なって、共に上を見て歩いていたことを謝った。私が白い星を追っていたように、彼女は私が空に還したスピカを追っていたらしい。

「びっくりしたの。私のほかにも星を手放す人がいるなんて。あれはコルネフォロスです」
「私のはスピカでした。勇者ヘルクレスの星なんて、お守りになりそうなのに」
「それを言ったらスピカだって、とっても人気の星でしょう。私はいいんです。いま、家にヘルクレスを連れて帰りたくない……」

私はひとつの予感を覚えた。遠くで雷が鳴り、水晶のような雨粒が落ちて彼女の頬を濡らす。私は彼女に、店主から借りた傘をさした。

「私も同じですよ。いま、織姫以外の乙女を家に入れるのは気が引ける」

彼女がはっとしたように私の顔を見上げる。予感は当たっていたらしい。

「家ではベガが待っているの。明日までに、アルタイルと会わせてあげたかった」
「明日のこの時間に、また、ここでお会いできますか?」
「あなたが彦星を連れて来てくださるなら」
「もちろんです。あなたも織姫を忘れずに」

彼女は傘の内側に描かれた夏の星座図を見ながら、「晴れますように」とつぶやいた。