◇黄昏、車を走らせながら

仕事を終えて外に出ると、重く冷たく圧し掛かるような雲に、空一面が覆われていました。見えるすべてが薄暗く、吹き抜ける風はまだ弱かったけれど、そっと気味悪さを覚えてしまった。いかにも何かがこれから起こりそうな雰囲気。

でも、昨日の夕方のほうがもっと、禍々しさを感じた気がします。
車に乗り込んだときは西日が差していて、世界はまだ明るかった。黄金色に満ちていた。雲はあったけれど、よくある、秋の夕暮れ。輝いていた。

書店に寄って30分。ふたたび外の世界へ踏み出したとき、思わず足が竦みそうになってしまいました。
空にはまだ、あたたかな光の色が残っていました。けれど遮るように立ち込めた雲の、恐ろしさといったら。灰色のどんよりした塊のようでいて、光が透けて銀色に見える部分もある。まばらで、まだらで、不安定で、不均衡で、なんて歪なんだろう。
地上にあるすべてが、薄暗い闇の中にひっそりと沈んでいました。だからか雲の向こうにある夕焼け空が、ひどく遠い存在に思えて。
その中を、車のライトで照らしながら走っていく。

角を曲がるとき。その先に見知らぬ町が広がっていないか、怖くなった。
橋を渡るとき。その先に着くと元の町に戻れない気がして、恐ろしかった。

あり得るはずのない可能性がいくつも浮かび、自然とハンドルを握る手に力を込めてしまう。
やがて空からは夕焼けの名残もすっかり失せ、普段と変わらない夜が広がっていました。胸に広がる安心感に、思わず漏れた息。ほー……。

変化のめまぐるしい夕暮れどきは、異世界に迷い込むとか、別の世界と入り混じるとか、世界が終わるとか、そういう想像をしがちです。それに相応しい姿をしていると思う。恐ろしくもあるけれど、強く惹きつけられもする。
またその時間になれば、わたしは空を見上げてしまうのでしょう。不安の中に、ちょっぴり期待を忍ばせて。