塞下の曲――李白の詩の詩

塞下さいかの曲

白馬がいる。黄金のとりでがある。
雲のごとく舞い上がった砂けむりに
夢のような想像をめぐらせている。
(こうして美しい想像をめぐらせてみないで)
どうして堪える事ができようか、
こんなに苦しいうれいの季節を。
遠く辺境へんきょうの地に暮らす我が子をおもえば、
蛍の光は秋の窓辺へ飛んで満ちあふれ、
月が霜のかかる寝屋ねやの上を
ゆっくりと進んでいるのも感じられてくる。
(だが夜が明けてみると、)
梧桐あおぎりの葉は破れ散っていて、
沙棠やまなしの枝が、物寂しい音をさせて
風に吹かれていた。
私はいつでも独り、(あの子の姿を)見ることはできないのだ。
涙が流れて、(物憶ものおもいの世界から私は、)
空しく我にかえった。

※この詩のテーマは「夢とうつつの往復・繰り返し」。
 この時期の李白の切ない日常の思いを詠った。
 子を憶う、孤独の詩。


塞下さいかきょく

白馬はくば 黄金おうごんとりで
雲砂うんさに 夢思むしめぐらす
なんえん 愁苦しゅうくせつ
遠く辺城へんじょうの子をおもうに
蛍は秋窓しゅうそうに飛んで満つ
月は霜閨そうけいわたって遅し
催残さいざんす 梧桐あおぎりの葉
蕭颯しょうさつたり 沙棠さとうの枝
無時つねひとり見ず
涙流してむなしくみずから知る


塞下曲

白 馬 黄 金 塞
雲 砂 繞 夢 思
那 堪 愁 苦 節
遠 憶 邊 城 兒
螢 飛 秋 窗 滿
月 度 霜 閨 遲
摧 殘 梧 桐 葉
蕭 颯 沙 棠 枝
無 時 獨 不 見
涙 流 空 自 知



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