見出し画像

アリエル・ドンバール:子どものときの自分に忠実でなければ、死んだも同然

フランスのテレビ番組に、『長椅子(Le Divan)』というのがある。もともとは1987年から1994年まで、つづいていた。2015年にホストが変わって、また始まった。

長椅子は、フロイトの精神分析の、長椅子。つまり、有名人をまねいて、かれらのかなり深いライフ・ストーリーを、70分にわたってじっくり聞く、分析する、という番組である。

2017年の3月に、歌手で女優のアリエル・ドンバールArielle Dombasleが登場し、2018年の11月にそれがまた再放送された。再放送された人物は、他にはいない。ちなみに彼女は、最初の放映時(つまりもっと若いとき)にも、呼ばれている。

女優としての彼女は、なんといってもエリック・ロメールの映画の常連で、5本の映画に出演している。中でも『海辺のポーリーヌ』は彼女の映画として、忘れられないものである(下の写真)。寺山修司やポランスキーの映画などにも出ていたり、自分でも映画を撮っている。

わりと最近(といっても2008年だが)では、『サガンー悲しみよこんにちは』にも出ている。じつはアメリカ生まれで、『マイアミバイス』や『レース』などのアメリカのテレビ番組にも出演。歌手活動も順調で、アルバムは結構ヒットしている。今はこんな感じ。


彼女の父親は、俳優のようないい男で、メキシコで実業家をしていた。母親は外交官の父と作家・芸術家の母の娘だったが、34歳のとき亡くなった。このことは、彼女の人生に決定的な影響を及ぼした。

母方の祖母は、SF作家のレイ・ブラッドベリからその小説を捧げられるような人物。ポール・クローデルやオクタビオ・パスなど、錚々たる作家や芸術家と交友があった。早くに母親を失い、父親は怖かったアリエルを支えたのは、この祖母だった。

祖母は、あなたはそんなに素晴らしい声をしているのだから、音楽を勉強すべきよ、と、アリエルを鼓舞した。それが彼女の自信になった。

最初の結婚は、30歳年上の超プレイボーイ。アリエルは、かれのロリータだった。アリエルにとって最初の夫は、父親であり母親であった。

哲学者で作家のベルナール=アンリ・レヴィの写真を見た彼女は、これがわたしの人生の男だ、と確信した。今はかれと、お互いに超ぞっこんな結婚生活を築いている。番組の最中、結婚式のヴィデオが流れると、彼女は「すべてに感慨無量」といって、涙をながしていた。

子供時代の自分に忠実にならなければならない、そうでなければ死んだも同然、と彼女は冒頭からいう。愛してやまなかった母親が、突然いなくなってしまった衝撃。つまりしあわせな子供時代が、失われてしまったのである。だから彼女は、その後の人生をずっと、それを生きつづけるために、費やしている。そして母親ができなかった、しあわせな(後半の)人生を、回復するために。いうまでもないが、写真は子供時代のもの。

彼女には、子供がいない。わたしは自分自身に人生を与えたの、と彼女はいう。アリエルは、マリリン・モンローのように、みずからきわどいセクシーさを、売りものにする。女優はみんなそうなのかもしれないが、それをさらけ出すさまは、ほとんど露出狂。いつも、紅白のトリをつとめます、みたいな、ド派手なファッションである。

わたしたちはみんなバービー、と彼女はいう。自分自身をバービードールにして、自分と遊んでいる、子供のようなのだ。

しあわせな家庭を築いて、子供を育てたとしても、人間はつねに自分の中に、子供時代の自分を持っている。その子供の欲求が満たされていないと、人間はつねに渇望したままである。それが度を超えると、その人間を破滅させたり、苦悩させたり、悪事を働かせたりする。

バランスのとれたストレスと活力になるようなかたちで、という断り書きをつけておくが、子供時代の自分の欲求が今の生活で満たされているかどうか、たまに立ち止まって考えてみるのは、必要なことかもしれない。

#子供時代の自分 #アリエルドンバール #海辺のポーリーヌ #バービー #フランス #女優 #映画 #ライフストーリー #田中ちはる

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?