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令和発表の日はフランスのカーン(Caen)に

4月1日からのヴィザがおりたので、フランスのカーンに移動。ここのIMECというアーカイブ(資料館、図書館)で、フランスの映画監督エリック・ロメールのリサーチをするためである。

ここの人たちとやり取りしたり、いろいろあった末、急に決めてしまったことなので、じつは荷物をまとめたりするのが、大変な騒ぎだった。なんとかやりくりして、来ることができた。

タクシーの運転手さんはもとはシャンパンの営業をしていて、日本、中国、アメリカ、ドイツ、ラテンアメリカ、世界中のいろいろな国に、駐在していたことがあるという。次は香港というところで、両親の介護のため、地元カーンに帰ってきたという。香港も行きたかったので無念だった、と何度も言っていた。

日本語も習ったけど「ください」しか覚えていない、という。なぜ「ください」だけなのか、よくわからない。s'il vous plaît.(please)の訳だから大事なのだろうか。しかしフランス人はそんなに、s'il vous plaît.(please)と言っているようでもない。

Bonjour(こんにちは)やBon soirée(夜に、それじゃあ、という感じ)は必須で、お店に入っても、駅で切符が通らないんですけど、と係員にいうときも(よくある)、とりあえずBonjourと言わないと、窓口の扉を開けてくれなかったりする。フランス人の人が、Bonjourと言われないと、人権を無視されたみたいな気がする文化なのだという本を読んだ、と言っていた。

日本では店にふらっと入って、何も言わずに出ていったりするが、そういうのはとても失礼なのである。言わないと、Dites bonjour!(Say hello!)と言われる。イギリスではあり得ない。

夜はホテルで一泊。次の日田舎道を、重いスーツケースをぜいぜい押しながら、歩くこと20分。グーグルマップでたどり着いたものの、どこが入り口かわからずに、電話をした。「まわりに何があるか?」と聞かれても、「緑」としか答えられない。扉の閉まった建物の前の通りの向こうは、ひたすら緑(写真)。

何しろ歩いている人は、ほぼいない。わたしが困っているのを見て、車で通りかかった人がわざわざ車を止めて、どこへ行きたいの、と話しかけてくれた。延々とつづくのかと思った壁沿いを歩いて角を折れると、受付はすぐにあった。

ニースやマルセイユには大学時代行ったことがあるのだが、パリ以外のフランスは、まだまだ未体験である。ノルマンディーつまり北西部にあるカーンも、もちろんはじめて。アーカイブは、カーンの駅から歩いて1時間ほどの、アルデンヌというところにある。街中ではないせいもあるが、とにかくのどかな雰囲気である。

フランスの田舎(ここしか知らないが)はまたイギリスの田舎とも雰囲気がちがって、こういうところに住むのもいいな、と思う。いや、これから数ヶ月、実際ここに住むことになる。といっても火曜から金曜までしか開いていないので、週末はパリなのだが。まったくなんともないような家並みの眺めにも、なんだかほのぼのする。

日本では令和で万葉集がバカ売れしていると聞いた。名付け親は母校(高校)の古典の先生だったという話を、高校の先輩の現国語教諭に聞いて、びっくり。「時は初春の令き月、空気は美しく、風は和やか」。梅や蘭は咲いていないが、なんとなくこのカーンの風景の透明感と、合致している気がする。神がかったところは皆無だが、ちょっと出雲の空気の透明感に似ている。パリのイメージでないことは確かだ。


日本にいないので、4月1日に年号が発表されるということも、あまり意識していなかった。そんな日に、フランスのカーンにきて、これからここのアーカイブでお世話になるというのは、偶然である。なんとなくイメージがだぶって、シンクロみたいで、令和のこれからの日々が、たのしみになった。

#フランス #ノルマンディー #カーン #IMEC #紀行 #令和 #田中ちはる

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