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ジェーン・フォンダと5人の男たち

英国映画協会(BFI, British Film Institute)のイベントで、ジェーン・フォンダ本人のトーク。本人がくるというので、行ってみたいと思っていたが、このイベントはずいぶん前から、売り切れだった。しかし、当日別のチケットを買うためBFIのサイトへ行くと、急に1席空いていたので、速攻で取った。誰かがキャンセルした席なのだろう。ラッキー。

女優ジェーン・フォンダのことは、いろいろに説明できる。彼女は政治活動家としても有名で、ヴェトナム戦争やイラク戦争に反対する運動をする一方、フェミニストでもある。しかし、自分は今まで男性にいわれるままに生きてきたのだなどと、ぽろっと言ったりもする。

彼女のキャリアをみていると、それも確かにそうなのだろう。3回の結婚・離婚を繰り返し、4人目とは籍を入れていなかったが、2017年に別れている。その面々が、すごい。

一人目は、フランスの映画監督、ロジャー・ヴァディム。ヴァディムといえば、ブリジット・バルドーの最初の夫で、『素直な悪女』(1956)を撮って、いちやく彼女をセックス・シンボルとして有名な存在にした。それはかれの監督デビュー作でもあった。バルドーが共演男優と恋におちたので、この結婚はすぐに破局したが、ヴァディムはカトリーヌ・ドヌーヴなど、次々と主に女優をものにして、結婚と離婚を繰り返した(ドヌーヴとは籍をいれず)。ジェーン・フォンダは、かれの3人目の妻だった。監督に愛されて映画に撮られるというのは、監督の方も、女優の方も、官能を刺激されるのだろう。

二人目は、ヴェトナム戦争反対運動を主導した政治家、トム・ヘイデン。社会正義のために闘う男にぞっこん惚れてしまい、自分も一緒に活動に乗り出す。

三人目はCNNを創設したメディアの帝王、テッド・ターナー。国連に多額の寄付金をして国連財団をつくった、慈善家(philanthropist)としても有名である。

四人目は結婚はしていないが、音楽プロデューサーのリチャード・ペリー。男性に対して、心の底から親密感を感じたことがなかったが、かれと会って、絶対的な安心感とはこういうものだと思ったそうだ。彼女が74歳、かれが70歳のとき、「74歳にして、これまでで最高のセックスライフを送っているわ。若いころは抑制が強くて、自分が何を欲しているのかわからなかった」などという名言を吐いていて、聞いている方が、まったくタジタジである。かれとも2017年に別れている。

しかし、彼女にとって最大の男は、父親である往年の名優、ヘンリー・フォンダだったのかもしれない。長年父と確執があった彼女は、自分の物語のようだった『黄昏』(On Golden Pond)という芝居の映画の権利を買って、この映画のストーリーを実際の父娘で演じることで、父と和解をしようとした。

この話は彼女(と父)にとっては、まったく実話そのままなので、彼女は演じることにとても緊張し、ナーヴァスになっていた。ヘンリー・フォンダの妻つまりジェーン・フォンダの母親役は、これまた世紀の大女優で超個性派である、キャサリン・ヘップバーン。

出会ってすぐにジェーンに向かって、「あなた嫌いよ(I don't like you.)」と言い放ったというヘップバーンだが、緊張しているジェーンを藪の中から見ていて、「できるわよ!(You can do it!)」と励ましたりしていた、という。ジェーンの友だちのマイケル・ジャクソンがセットに遊びに来ると、最初あれ何者?と煙たがっていたが、かのスリラーのすごい勢いの歌手であるとわかると、隣にかれを座らせて、毎日教訓付きのお話をしてやっていた、とか。こういう逸話のあるひとは、いい。

父と娘で見つめ合うシーンで、照明がきつすぎて父の眼が見えず、照明を落としてもらったりした。しかし父親はそんなことは気にしておらず、「オレはそういうタイプの俳優じゃないから(I'm not that kind of actor.)」と言っていたという、父娘の性格の対比も、おもしろい。

ジェーンは父親に、「わたしはお父さんと友だちになりたいだけなのに!(I just want to make friends with you!)」と言ったら、父親が涙ぐんでいたので、感動した。

父親がえらい(しかし必ずしもよい父ではない)と、娘(息子もだが)は何かと大変なのだろう。彼女の男性遍歴のもとをたどれば、そうなりそうだ。80歳にして、発声もしっかりとウィッティーに喋りつづけ、整形や美容の話も止まらない、ジェーン・フォンダ。とくに好きな女優というわけではないが、肩に力の入った生き方で飛ばしまくる彼女のエネルギーを、生でびしびし感じることができた。

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