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めぐりズム、全力で体を休める。

押し入れの奥の方から「めぐりズム」を引っ張り出した。蒸気で目元をポカポカ温めてくれるホットマスクで、使い捨てカイロみたいに袋から出したら、けっこうすぐにポカポカになる。

数年前に自分の中でめぐりズムブームが来て、大量に買ったことがある。それを見ていた母が、この間、職場の人にめぐりズムをいくつかいただいた時「そうだ娘にくれてやろう」と思ったらしく、3枚ほどお裾分けしてくれた。

もらった頃にはとっくにブームも過ぎ去り、なつかしいな、とさえ思ってしまった。

数年前、つまり会社員時代だったときは、おめめをポカポカさせることが日々の癒しだった。最近はすっかり、おめめをポカポカさせていない。

持病、というか体質というか。この時期になるとどうも、やたらハイになってしまう。朝早くから夜遅くまで、何かひとつのことにずっと集中してしまうのだ。

集中できるのは悪いことじゃないけれど、体がそれについていけない、というのは困ったものだと思う。

例えるなら、苦手だと思っていた右折ができるようになって、なんだか急にドライブが楽しくなっちゃって、気づけばどんどん走っていて、え、うそ、そんな、ガソリン無くなっちゃいました、動けません。みたいな感じ。


今までずっと気持ちが落ちていて(今年はそんなに悪い方ではないけれど)、やりたいけど心がついていかない、という状況が続いていた。

それが急に晴れて、視界がクリアになった。今ならなんでもやれるし、どこへでもいける。そんなふうだから、朝から晩まで永遠にパソコンを睨みつけていたわけだ。そして、ガソリンが無くなっちゃいました。

少し休憩しようと思った時、押し入れの奥にしまった、母からお裾分けしてもらっためぐりズムを思い出した。急だった。めぐりズムがポカポカするのと同じくらい、あっという間に思い出した。

封を切ると、ラベンダーの香りが辺りにかおる。ラベンダーは癒し効果があるというけれど、私はどちらかというと焼き立てのパンの匂いの方が、癒し効果は強いんじゃないかと思っている。ここだけの話だけど。


めぐりズムを目元に当てる。タイマーを15分にセットした。うっかり寝てしまわないように。

アイマスクをつけると、簡易的なものであっても、やっぱり視界は暗くなるんだなと改めて実感した。

瞑想はいいらしい。瞑想がいいというのはずっと前からよく聞く話だけど、最近また聞くようになった。瞑想してみようかな。

なんて「瞑想について考える」という雑念にまみれていると、不意に目元がじんわりしてきた。ああ、今、私のおめめポカポカです。



全力で体を休めた。

温かくて、じんわりで、ほのかに薄暗い視界の中ではもう、何も考えられなかった。うん、あった。確かにラベンダーの香りって、癒し効果あった。疑ってごめんなさい。

ベッドに横たわっていると、なんだか遠くへ連れて行かれるような気がした。

ほどけた世界をめぐっていると、ああ、お母さんに「めぐりズムありがとう」って伝えようと、ぼんやりした頭で思った。多分、いつの話してんのって笑われるだろうけれど。


ゆっくりと起き上がり、少しずつ冷え出しためぐりズムをそっと外す。視界がぼんやりと滲む。

タイマーは、まだ鳴らない。

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