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第9話 叶わない内見

今住んでいる部屋の退去期限が九月末日。そして現在六月という状況。二学期から新しい学校に入れてやりたいという気持ちがあってできれば八月中の引っ越しを実現させたい。リフォーム期間を考慮すると六月中には物件を決めたいところである。気持ちは若干焦っているが、だからといって希望の物件がポンポンでてくるわけではない。予算を上げればその選択肢が増えるのは当然だが、金額的に無理は絶対にしないと決めていた。しかし先の横取り事件以来なかなか思うように内見できないでいた。というのも、なぜか僕たちが内見を希望するとその物件に申込みが入る事態が続いたのである。

自慢じゃないが僕たちにはお客さんを呼ぶ力があるらしい。例えばほとんど人が入っていないようなカフェやレストランへ行くと突然混みだすのである。いつもは空いているんですけどねえ、という店主の声を聞いたのは一度や二度ではない。ぼくらが行けば店が混む。あちこちでそんなことが起こるから僕たちからお客さんを呼ぶ気が出ているに違いない。それが不動産購入でも困ったことに起こってしまっているのだ。この物件良さそうと思って内見の希望を出すとそれまで何ヶ月も掲載されていた物件が次々に決まっていくのである。僕たちは売り主にとっては福の神だねなんて笑っていたが、何軒も内見すら叶わないことが続くといつまでも笑ってばかりいられない。しかし他所様の申込みを阻止することなどできないのだから結局笑うしかないのである。

それで何軒もまとめて内見することを諦めて一軒でも良さそうな物件が見つかれば見に行くことにした。コロナでテレワークの影響か郊外に引っ越すひとが増加しているらしい。通年なら売り物件もそれなりに出るところが、今年は全然出ない。それなのに買い手は大勢いてだからあっという間に契約が成立してしまうという。何軒も希望の物件をまとめて内見、なんて悠長なこと言っていられないのである。一軒でも行く。そして良ければ即申込み。これが鉄則、にようやく気がついたのである。

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