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第3話 頼むから出ていってくれ

今ぼくが住んでいるのは築五十年を超える団地の一室であり、それは知人が所有する物件である。知人というコネを利用して相場よりも安い金額で貸していただいているのだ。利便性のよい立地にあるせいで、気がつけばもう十六年も暮らしてきた。その所有者が部屋を売却したいと言ってきた。当初はオーナーチェンジ物件で売りに出していたがなかなか買い手がつかず、悪いけど引っ越してくんないと連絡してきたのである。

オーナーチェンジ物件とは、居住者そのままで物件の所有者だけが変更になるという仕組みである。退去期限は五ヶ月後。そういう条件であれば買ってもいいという買い手が現れたらしい。五ヶ月というのはいくらなんでも短いのではないかと思う向きもあるかもしれないが、知人には知人なりの切羽詰まった理由があるようだ。散々お世話になった相手であるからここでゴネても仕方がない。ぼくは二つ返事で了承した。むしろこれで否が応でも引っ越さなくてはいけない状況になったのだから良しとしたいではないか。こうして我が家に本格的な物件探しの幕が切って落とされたのであった。


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