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蒼海14号 すきな句

去る者も来る者も身に沁むものぞ  堀本裕樹

連作「ブリュックの蝶」より。蒼海俳句会を去る者も来る者もということかなと思いました。「ぞ」にどんと構えた主宰の心情があらわれているようでもあります。

茎縛るドライフラワー鹿の声  神野紗希

招待作品十句「天心へ」より。ドライフラワーに取り合わせた季語「鹿の声」に湿り気と情感があり巧みです。

冬瓜やうすく夕日の入る厨  曲風彦

冬瓜のあんかけでしょうか。夕食前につまみ食いをしたくなります。なつかしい風景。

ひらひらと踊子集ふ都庁前  白山土鳩

殺風景なビル街との対比で踊子のひらひらの衣装が映えます。具体的な都庁前がよいです。

蜩や大教室に忘れもの  窪田千滴

大学の大教室でしょうか。人のいない大教室は荘厳な雰囲気。季語が良いです。

納骨の旅にぎやかに夏の山  山岸清太郎

漫画的な明るさに癒されます。このような弔いをしてもらえたら最高です。

遠雷やさみしさ匂ふくすり箱  杉澤さやか

さみしさ匂ふの措辞に胸が締め付けられます。(そして薬箱の匂いは正露丸の匂い‥‥?)

停電の町や夕焼を鳥の群れ  早田駒斗

停電の町に人類の終わりを見ているようでもあって実に壮大な句です。

大いなる白寿の口へパイナップル  すずきなずな

パイナップルの繊維が入れ歯に入り込みはしないか心配になります(笑)とてもおおらかな句。

受話器よりきく海風や夜の秋  西木理永

受話器と即物的にいってみたところがよいです。季語もぴったり。

ハンモック吾を置き去りに雲流る  朝本香織

置き去りにがエモくてよいです。

大梅雨の底を各駅停車かな  板坂壽一

街全体が水の底に沈んでしまったかのような把握がすごいです。各駅停車に人間の無力感があらわれているようでもあります。

鼠喰ふ蛇の右利きらしきかな  河添美羽

手のない蛇が右利きだというところが最高にホラーです。

葉桜やめでたきことは大声で  中村たま実

この句も是非大声で読み上げたいです。

突として空暗くなり冷奴  矢崎二酔

突としてという言い方が粋で季語冷奴が動きません。

エンターキー幽かに光る桜桃忌  加留かるか

太宰治に憧れる作家が暗い部屋でパソコンに原稿を打ち込んでいる様子が目に浮かびます。

短夜に思ふこと豪雨のやうに  中島潤也

考えても仕方ないことをとめどなく考えてしまう感じ、よくわかります。

隣県の土産売る店桐の花  さとう独楽

ひとめ見て笑ってしまいました。愛すべき土産物屋さん。清潔感のある季語が◎

首飾り抑へて金魚覗きけり  日向美菜

ゆっくりとした所作にうっとりします。

巴里祭のシェフ挨拶に来たまへり  平林檸檬

堂々と歩いてくるシェフ。季語がぴったりです。

満月や浜辺に集ふ嫗達  プロイス百代

これだけでもよい句ですが、作者がドイツ在住ということを考えて読むとまた物語が広がると思いました。嫗達が妖艶。

仰向きて本に暗さや冷蔵庫  武田遼太郎

広くないワンルームで仰向けで本を読んでいるのかなと思いました。17音に情報をぎゅっと凝縮していて面白いです。

夕暮れのやうな洋酒に浮く檸檬  会田朋代

夕暮れのやうな洋酒という比喩が素敵です。檸檬も夕暮れの色に。

盆用意子どもらはカレーでいいか  佐復桂

力の抜けた口語をそのまま句にしているところが良いです。子どもが何人かいる平和でにぎやかなお盆ですね。

寝はぐれし窓に医大の灯の涼し  冨永美惠子

入院していて窓から医大の灯りを見ているのかなと思いました。寝はぐれたけれど涼しという着地の意外性。

背泳ぎの不意なる無音終戦日  南波志稲

不意なる無音がうまいと思いました。終戦日の句は難しいけれど、過ちを忘れないために作りづつけていきたいです。

保育士のペディキュア青黄赤プール  後藤麻衣子

保育士さんたちの若さに好感がもてて眩しいです。


個人的なメモとして残しておきたい句を書きました。
もちろんこのほかにも読みどころのある俳人がたくさんいます。

蒼海俳句会のHPはこちらです ↓






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