ちーかま

蒼海俳句会の千野千佳(ちのちか)です。俳句のこと、日常生活のことなど。

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マガジン

  • 蒼海のすきな句

    俳句結社誌「蒼海」のなかでの個人的すきな句を冊子ごとにまとめました。

最近の記事

若杉朋哉句集 『朋哉句抄』

若杉さんが俳句を作り始めた2012年から2021年までの10年間に作った句の中より、特に愛着のある373句を収めたもの。 わたしは俳句作りに煮詰まったときに若杉さんの句集を読むことが多いので、このポケットサイズの句集がとてもありがたいです。 とくに好きな句。 楽しみな冬日の差して来たりけり 春の風邪やさしくされて困りけり 落ちてゐるものを椿とおもふなり しやぼん玉はじめ一番大きくて ひらくまでのぼつてゆける花火かな らあめんに押し寄せてくる夜霧かな 次の間も次の間もかう

    • 蒼海23号 好きな句

      蒼海23号は2024年4月刊行。 招待作品は、俳句が浅川芳直さん、短歌が睦月都さん(現代歌人協会賞受賞おめでとうございます!)、詩が岩佐なをさんです。 〜 その他のみどころ 〜 ・堀本裕樹主宰の作品が20句→50句に大幅増量 ・歌舞伎吟行レポートおもしろい(「金のミルク」にまで「カブいてるねえ」と仰る主宰) ・能吟行レポートおもしろい(主宰が美女に変身) ・蒼海鼎談おもしろい(短歌をやってみたくなる&小説を書いてみたくなる) ・蒼海リレーエッセイが今回も名エッセイ 雪に

      • 能村登四郎全句集⑧ 『天上華』

        能村登四郎の第8句集『天上華』は、昭和59年、登四郎73歳のときに出版されました。収録句数は469句。第7句集『冬の音楽』から3年での出版です。 昭和56年に水原秋櫻子の死があり、登四郎は「馬酔木」同人を辞退しました。さらに昭和58年に妻を喪いました。登四郎よりも7歳若かったとのこと。 この『天上華』で登四郎は蛇笏賞を受賞しました。 いままでの登四郎の句集の中でいちばん好きな句が多い句集でした。 薄目せる山も混りて山眠る 秋祭終り用済みの老人たち 蕊が蕊舐めて雨中の曼

        • 能村登四郎全句集⑦ 『冬の音楽』

          能村登四郎の第7句集『冬の音楽』は、昭和56年、登四郎70歳のときに出版されました。収録句数は370句。第6句集『有為の山』から3年での出版です。 昭和53年末に登四郎は教職を離れ俳句一筋の生活に入ります。昭和55年に沖創刊10周年を迎えました。同じ年、後輩の福永耕二の突然の死がありました。 あとがきには、「職を離れてから多少時間的にも精神的にも自由になったので、その分だけ伸び伸びと明るくなったように思う。」とありました。 前句集と同様に好きな句がたくさんありました。

        若杉朋哉句集 『朋哉句抄』

        マガジン

        • 蒼海のすきな句
          23本

        記事

          鈴木総史句集 『氷湖いま』

          鈴木総史さんは平成8年生まれ。「群青」同人「雪華」同人。 まず、櫂未知子さんの序文、佐藤郁良さんの跋文、橋本喜夫さんの栞文の熱量(愛情)がすごいです。 佐藤郁良さんによると、総史さんは「人懐っこくて気の置けない男」「こちらのグラスが空いていればすぐに注いでくれるかわいい男」。(貴重な人物です。) 昨年の星野立子新人賞の授賞式で、櫂未知子さんが総史さんのことを「チャラい男でしょ、ふふふ」とうれしそうに紹介していたことが印象に残っています。 就職により北海道へ移住したこと

          鈴木総史句集 『氷湖いま』

          セクトポクリットのコンゲツノハイク【2024年3月】 12句選

          なんとなく雨の明るし立子の忌 松田晴貴(秋草) 逆さまのドライフラワー都鳥 加藤綾那(秋草) 座り立ち座り立ちして卒業す 後藤信雄(火神) 終点にやらかした顔冬帽子 山川三郎(銀化) 干柿や天守より朽ちラブホテル 村越敦(澤) 空缶の試し撃ちなり狩の宿 新村秀人(澤) 子の最期知る人の無し厚氷 天地わたる(鷹俳句会) 熱の子へはつゆき雨に混じりつつ 今泉礼奈(南風) 聖樹の灯消して売場に薄き闇 五月ふみ(南風) 冬に入る猫の肛門一文字 太田うさぎ(街) 雪合戦したる教師と保護

          セクトポクリットのコンゲツノハイク【2024年3月】 12句選

          関谷恭子句集 『落人』

          関谷恭子さんの第一句集です。 恭子さんは2010年に「濃美」に入会。2018年に「蒼海」にも入会、創刊号から19号まで参加後退会されています。あとがきによると、武者修行のように4年余りを「蒼海」で過ごしたとのことです。(蒼海14号のリレーエッセイ「淡海吟行のこと」を思わず読み直しました。) 蒼海でご一緒していたとき、句会で恭子さんの句を採ることが多く、また恭子さんに句を採っていただけたらお墨付きをいただいたような気持ちになって嬉しかったです。 恭子さんの祖先は平家の落武

          関谷恭子句集 『落人』

          第1回鱗kokera賞 好きな句

          3月1日に第1回鱗kokera賞(選者が村上鞆彦さん、西村麒麟さん、鴇田智哉さんで豪華!)の結果が発表されました。 受賞作が鱗kokeraさんのホームページに掲載されていました。みなさんの未発表15句連作が読めるので面白いです。 好きな句を挙げます。 ◎鱗賞「徂春の匙」 内野義悠 流氷来からつぽの胃の輪郭へ  はつゆきのひらと造花を信じきる ◎鱗賞「水没」 牧野冴 魔女に火を借りるナースやハロウィーン 町に生まれ町に死ぬ子や石蕗の花 ◎村上鞆彦賞「梨に噎せ」 関灯之

          第1回鱗kokera賞 好きな句

          能村登四郎全句集⑥ 『有為の山』

          能村登四郎の第6句集『有為の山』は、昭和53年、登四郎67歳のときに出版されました。収録句数は427句。第5句集『幻水山』からわずか3年ほどでの出版です。 自身の胃潰瘍での入院、その看病疲れのため妻が脳腫瘍となり二度の手術、一時は二人とも入院するという大変な時期だったようです。 前句集の『幻山水』よりも惹かれる句が多い句集でした。 あとがきには「自然と作品は暗く、常に死を意識の底に潜ませたような作品が多い」とありましたが。 寒き夜のいづこかに散る河豚の毒 野仏を避けた

          能村登四郎全句集⑥ 『有為の山』

          能村登四郎全句集⑤ 『幻山水』

          能村登四郎の第5句集『幻山水』は、昭和50年、登四郎64歳のときに出版されました。収録句数は446句。第4句集『民話』からわずか3年ほどでの出版です。 「沖」創刊5周年に当たるので記念にとすすめられて出版に踏み切ったとのこと。 ゆく舟を見て又睡る昼寝びと 秋耕の終りの鍬は土撫づる 露微塵冥(よみ)から父の平手打ち 人の世の沙汰を知りたく蜘蛛降りくる 虹かけて滝を離るる滝飛沫 すでに要ゆるびし牡丹崩れざる 眼薬をくらきに置いて土用あい 晩菊や四五戸に尽きる入江村 ぬば玉の闇

          能村登四郎全句集⑤ 『幻山水』

          俵万智歌集 『アボカドの種』

          俵万智さんの7冊目の歌集です。表紙のアボカドの絵がかわいいです。見返しと遊び紙がアボカドの内皮(というのかな?)を思わせる若緑色で、栞紐がアボカドの濃い緑色です。装幀は名久井直子さん。 俵万智さんの日記を読んでいるような気持ちになる歌集でした。 とくに好きな歌を12首。 父に出す食後の白湯をかき混ぜて味見してから持ってゆく母 看板にDATEとあれば大方はダテと読ませる仙台の店 翅の柄アールヌーヴォー ブローチにしたきオオスズメバチの唐揚げ はるちゃんの面接官がはる

          俵万智歌集 『アボカドの種』

          睦月都歌集 『Dance with the invisibles』

          所属結社「蒼海」の堀本裕樹主宰にすすめられた歌集です。 作者の睦月都さんは1991年生まれ。「かばん」所属。2017年、「十七月の娘たち」で第63回角川短歌賞を受賞されています。 この歌集は旧かな文語で書かれているので、普段旧かな文語で俳句を書いている自分にはとても親しみやすかったです。 また全体の構成が見事で、透明感のある上質な映画を見たあとのような、心地よい読後感がありました。 とくに好きな歌を12首。 灯油売りの車のこゑは薄れゆく花の芽しづむ夕暮れ時を 簡潔

          睦月都歌集 『Dance with the invisibles』

          セクトポクリットのコンゲツノハイク【2024年2月】 20句選

          蜜柑むく指がきれいで騙される  加藤綾那(秋草) 雨粒の那由多の灯る十夜寺  田邊大学(秋草) 小六月玉が玉突く玉の音  村上喜代子(いには) 自転車を鳥居にとめる三日かな  岡田由季(炎環) コンビニの四角く煌と時雨れけり  山尾玉藻(火星) せつせつと芋虫の斑の波打てる  蘭定かず子(火星) 冬の夜や閉ぢて鏡を休まする  峯尾文世(銀化) 火葬場の丸きスイッチ曼珠沙華  夏目たかし(櫟) 背後の人同じ吊革摑む残暑  長谷川照子(澤) 的の矢を抜くに力や秋高し  寺澤佐和子

          セクトポクリットのコンゲツノハイク【2024年2月】 20句選

          小津夜景句集 『花と夜盗』

          小津夜景さんは1973年北海道生まれ。『花と夜盗』は、第一句集『フラワーズ・カンフー』につづく第二句集です。2000年よりフランス在住とのこと。 小津夜景さんのエッセイ集『いつかたこぶねになる日』も句集といっしょに読み、小津さんは名文家だと思いました。文章のすべてが美しく、文節単位で見ても一切油断がない……! 『花と夜盗』の印象に残った10句を。 風船の縁(へり)をすべりて光の刃 ものぐさでものさびしくて花軍(いくさ) 蟬生(あ)れて死んで愛してゐた時間 かささぎのこぼ

          小津夜景句集 『花と夜盗』

          郡司和斗歌集 『遠い感』

          郡司和斗さんは1998年生まれ。気鋭の歌人として有名ですが、俳句結社「蒼海」にも所属しています。わたしもおなじ結社です。 2018年に刊行された蒼海創刊号の郡司さんの俳句は上手くてかっこよくて衝撃的でした。 しんしんと爆発したる雪柳 郡司和斗 海中のくちづけしたる海女と海女 同 『遠い感』のなかから好きと思った歌を挙げます。 またねって言われてもまだ赤だけど シャツのボタンをくにくに触る シャンプーをしたあとすぐにシャンプーをしたのかどうか忘れてしまう 歩き方が伝統

          郡司和斗歌集 『遠い感』

          蒼海22号 好きな句

          中空の痣のごとくに葛の花 堀本裕樹 口笛を吹きつつ囮置く子かな 堀本裕樹 主宰の作品「濃く淡く」より。葛の花の句は比喩が新鮮です。囮の句は「悪の経典」の主人公が「三文オペラ」の口笛を吹くシーンを思い出しました。 鼻息がうぶ毛にぬくし秋の蚊帳 森賀まり 銀杏のまるく艶無くこぼれけり 森賀まり 招待作品「銀杏」より。鼻息をミクロに詠んだ句に驚きます。銀杏の艶の無さを詠むことにもまた驚きました。森賀まりさんの十句がすごくいいです。 である調とですます調のあいだだけ栄えていた

          蒼海22号 好きな句