見出し画像

蒼海15号 すきな句

冬蜂のしがみつきたる乳鋲かな  堀本裕樹

乳鋲とは門の扉や蔵の壁に付ける、乳首に似た形の金具とのこと。(ち、乳首‥‥!) 乳鋲、その名前とはうらはらに、城や蔵といったお堅い場所に付いています。しがみつく冬蜂の一生懸命さがかわいくてせつないです。

どうと負けやんやと沸いて宮相撲  つしまいくこ

「どうと」「やんやと」のオノマトペが楽しいです。宮相撲を真正面から楽しく描いていてあっぱれです。

雲中にひかり籠れり稲の花  犬星星人

曇り空に太陽の光が籠っている空の描写が端的です。季語「稲の花」の斡旋も意外性がありかつ雄大です。

カレンダー以つて遺書なるすすきかな  山口ち加

カレンダーの裏紙を遺書にしたのでしょうか。現代的な貧しさがせつなく、ぐっときます。季語「すすき」は作者の心象風景でしょうか。

秋燕や水車ひとこま狂ひをり  福嶋すず菜

水車の狂う「ひとこま」を捉えた目線が鋭いです。田舎の気持ちいい風景を思わせる季語「秋燕」の斡旋が巧みです。

ハンガーの服くたびれて愛の羽根  平林檸檬

服の持ち主の体も心もくたびれていそうです。愛の羽根だけが妙にいきいきとしている雰囲気に、風刺めいたものを感じました。奥行きのある句。


ほかにも惹かれた句がたくさんありました。自分のためのメモとして残しておきます。

月光や段落のごと墓低し  武田遼太郎

颱風の夜を読みとほすヨブ記かな  西木理永

縮緬のごとき反射を海猫帰る  鈴木トモオ

首都高の白線包帯めく夜長  小谷由果

紅葉狩花街言葉飛び交ひぬ  髙木小都

持ち直す母や月夜にパンを買ふ  中村想吉

身に入むや大き数字の体温計  中村たま実

たうがらしその影うねりをらざりき  早田駒斗

凩にバター匂へる銀座かな  森沢悠子

若き日の己が非情や虫の闇  矢崎二酔

ままごとのやうな弔ひ草の花  土屋幸代

夕月夜亡き子と食べしエスカルゴ  成瀬桂子

駅の北口工事中日記果つ  夏迫杏

脳味噌が飛び出してゐる捨案山子  国代鶏侍

火恋しゆつくり話す人恋し  加藤ナオミ

冴ゆる夜は息つくやうに停車して  古川朋子

擦り傷の上にまた傷や運動会  会田朋代

夫剥けば小さくなりぬラ・フランス  大西美穂

親切は輪になるごとく冬の空  沖山悠江

文化の日模型に灯す豆電球  澁谷洋子

運動会カメラ目線のまま走る  中川裕規

靴紐の酔ひどれめくや秋黴雨  浜堀晴子

爽やかや鳩のリズムで坂降る  和田萌

子はぶだうかぞへ延長保育かな  紺乃ひつじ

泥眼の奥へ奥へと虫すだく  さとう独楽

干柿に表も裏もないように  後藤麻衣子

鈴虫や停電の夜のピュアモルト  森井三喜

張りぼての豚にエプロン秋うらら  和地きいろ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?