第 2 章 既存文献レビュー

本章では、本研究に関連のあるテーマの既存文献レビューを行う。第 1 節ではクラウドファンディングの定義を記す。第 2 節ではクラウドファンディングやソーシャルメディアに関する既存文献をレビューする。

―第 1 節 クラウドファンディングの定義―

クラウドファンディングの定義づけは、様々な機関や研究者によってなされている。
Mollick (2014) は、「オンライン上でさまざまな個人や団体に資金を提供するための斬新な方法であり、営利目的、文化的、社会的プロジェクトの創設者が、何らかの形の報酬および・または投票権と引き換えに多くの個人から資金を要求するもの」と定義している。また、Lambert and Schwienbacher (2010) はKlemann, Voss, and Rieder (2008) の定義を踏まえ、「本質的にインターネットを通じて、寄付の形で、あるいは特定の目的のためのイニシアチブを支援するための何らかの形の報酬および/または投票権と引き換えに財源を提供する公的な呼びかけ」とクラウドファンディングのことを説明している。
以上のことを踏まえ、本研究におけるクラウドファンディングとは、「オンライン上でプロジェクトの企画者が何らかの報酬と引き換えに多くの個人から資金を要求する公的な呼びかけ」と定義する。

―第 2 節 既存文献レビュー―

第 1 項 クラウドファンディングの成功要因に関する研究
Mollick (2014) は、クラウドファンディングの分析的理解の最初の手段を構築するため、当時プロジェクト数48,000件以上、調達総額約2.4億ドルを超える、アメリカ最大手のプラットフォームであるKickstarter上のプロジェクトを使用して分析を行った。その結果、プロジェクトの質、SNS上での友達の多さ、地理的・文化的要素、企画者のいる地域の人口の性質、プロジェクトページ内の動画数やページの更新頻度がクラウドファンディングの成功に正の影響を及ぼすと分かった。
Mollick (2014) の研究を踏まえ、内田ら(2014)は、日本の最大手クラウドファンディングサイトの一つであるCAMPFIRE上の、 737 件のデータをロジスティクス回帰分析することで、クラウドファンディングの成功要因の日米比較を行った。ニュースレター掲載回数、活動報告投稿回数、いいね数はプロジェクトの成功率を向上させ、目標金額と募集日数の増加はプロジェクトの成功率を下げるなど、多くの説明変数について日米同様の傾向が見られた。一方で、日本においては、プロジェクトページ中の総動画数が有意にならない点に違いが表れた。また、テキストマイニングにより、成功するプロジェクトのほうが失敗したプロジェクトよりも豊富な語彙が用いられていたことも明らかにしている。

第 2 項 社会的交換理論に基づくアプローチ
社会的交換理論(Social Exchange Theory : SET)では、社会的交流において、個人の多様な社会的行動は物々交換の一種だと提言されている (Homans, 1958)。
Zhao, Chen, Wang, and Chen (2017) は,クラウドファンディングのプロジェクトの成功率の低さへの問題意識から、 支援者のプロジェクトへの支援意図の規定要因を探った。クラウドファンディングの文脈において、参画者は金銭や商品だけでなく感情や思いやり、激励の気持ちを交換し合うことから、社会的交換理論を用いる妥当性を説明している。204名の台湾における支援経験者から回答を得て、部分的最小二乗回帰分析を行った結果、「コミットメント」が支援意図に強い正の影響を与えていることが分かった。一方、「知覚されたリスク」は、支援意図への負の相関が予想されていたのに対し、本研究では正の相関関係になることが明らかになった。Zhao et al. (2017) の研究での概念モデルは図表の通りである。
本研究では、外生変数として、「コミュニケーション」「共有された価値観」「知覚された利益」、媒介変数として「コミットメント」「知覚されたリスク」、内生変数として「支援意図」を採用する。一方、本研究では、後述するように実際にクラウドファンディングの企画ページを閲覧したことがあるユーザーにのみ、その当時のページを思い出しながら回答してもらう。クラウドファンディングの企画の中には、商品がリターン品に設定されているものだけでなく、NPOのプロジェクトのお礼状や、サービス商材がリターン品として設定されているもの多くある。概念モデルの汎用性を高めるために、「知覚されたイノベーション」と「製品とのかかわり合い」の2 つの外生変数は採用しない。

図表 2-2-1 Zhao et al. (2017) の概念モデル

(出典)Zhao. Q., C. Chen, J. Wang, and P. Chen (2017), “Determinants of Backers’ Funding Intention in Crowdfunding: Social Exchange Theory and Regulatory Focus,” Telematics and Informatics, Vol. 34, No. 1, pp. 370-384. より作成。

第 3 項 合理的行動理論に基づくアプローチ
Kim and Park (2013) は、合理的行動理論(Theory of Reasoned Action: TRA)に基づき、ソーシャルコマースの特徴が消費者の「信頼」に与える影響と、信頼を媒介した行動に与える影響を探った。371名のソーシャルコマース利用者から有効な回答を得て、部分的最小二乗回帰分析を行った。分析の結果、ソーシャルコマースの会社の「評判」「大きさ」、そこで得られる「情報の質」「取引の安全性」「コミュニケーション」「口コミ紹介」は、消費者の信頼に正の影響与え、「信頼」は「口コミ意図」と「購買意図」に正の強い影響を与えることが分かった。Kim et al. (2013) は、研究余地として、「信頼」に影響を与える他の構成概念の探索を上げている。本研究では、媒介変数として「信頼」、内生変数として「口コミ意図」を採用する。

図表 2-2-2 Kim and Park (2013) の概念モデル

(出典)Kim, S. and H. Park (2013), “Effects of Various Characteristics of Social Commerce (S-Commerce) on Consumers’ Trust and Trust Performance,” International Journal of Information Management, Vol. 33, pp. 318-332. より作成。


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