窪田正孝のディレクション

前期クールの『ヒモメン』は、なんといっても主役の窪田正孝の演技のうまさが光っていたドラマだったが、彼は役柄のディレクションが本当にうまいんだなと心底関心してしまった。

ドラマというのは、全話を通して、よくわからない“あちら側の人”と、一般的な目線をもつ“こちら側の人”との交わりが起こす、「凝り固まった概念壊しちゃろか!」という違う生き方の提案が、物語の骨子となることが多い。

で、ヒモ男の碑文谷翔という、何考えているか一般常識では絶対に理解できないあちら側の主人公と、ゆり子という、一応こちら側だけど男選びがバカな、両方つっこみどころ満載なカップルが繰り広げるドラマは、視聴者に
「まぁそういう生き方も別にいいかもね、ああはなりたくないけど」と思わせる絶妙な距離感のまま、うまく最後まで引っ張ったと思う。

その視聴者との距離感を演出したのは、まぎれもなく窪田正孝である。
彼演じる碑文谷翔は、ドラマ一貫して『目の焦点』があっていない。
意図的なのかどうかわからないけれど、死んだ魚の目をしつつ、なんかキラキラもしていて、濁っていない。そこにちょっとした狂気を感じさせる。これはすごい。
視聴者側からすれば、毎週ちょっとだけ翔を理解したつもりになるけれど、でも全然近づけない。そして来週を期待してしまう。しかし近づけないまま終わる。だって翔本人が翔を理解していないから。

窪田正孝の役に対するディレクションは毎度毎度驚くけれど、同時期にやっていた『銀魂2』の河上万斉も絶妙だった。

万斉は原作を知っている人なら彼の正義を理解しているのだけれど、あの時点ではただの悪役で、しかも漫画やアニメでは表情がほぼ動かないから、何考えているかわからないド変人な奴でとらえられていた。三味線とかノリとリズムとか…。
しかし実写の万斉は、無表情ながらに、声やちょっとした動きでイライラやむすっとした感情を表現していて、「あ、こいつ掘ればおもしろいヤツかもな」と思わせる何かがあった。

その『何か』を窪田正孝はどう理解して演じているのかわからない。けれど、万斉の悪役としての役割を踏まえながら、キャラクターの魅力も伝えている。結果、万斉のキャラクターとしての人気も上がったらしい。
新たな要素を付け足したのではなく、隠れた万斉のかわいらしさをうまい具合に表す。もはや番組ディレクターである。

単に憑依すればいいってもんじゃなく、そういう監督的目線が、良い作品をつくる上でとても大事なんだなぁ。
毎度サプライズをくれる窪田正孝のこれからに期待する。


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