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映画「LOVE LIFE」感想

 一言で、登場人物ほぼ全員が屈折しすぎていて、誰にも共感できませんでした。喪失経験から人が離れ、過ちから愛を知る話ですが、肝心のストーリー軸が弱く、映画祭出品作品で絶賛されていても、私には全く合いませんでした。

評価「E」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。また、ショッキングな表現が含まれることと、酷評よりの意見なので、本作に感動した方は絶対に読まないでください。

 本作は、「愛」と「人生」を描いた作品として、矢野顕子さんの同名の歌から着想を得ています。皆が持つ「孤独」という感情を、あるきっかけで突きつけられたとき、それとどう向き合うのか、人を愛していけるのか、一人の女性を通して描いた作品です。
 本作は、深田晃司監督の最新作です。『淵に立つ』は、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞し、『よこがお』は、日本国内の公開が20館程度だったのに対しフランスでは最終的に800館での上映が実現するなど、日本・海外ともに高評価を受けています。(公式サイトより引用。)

・主なあらすじ

 妙子が暮らす部屋からは、集合住宅の中央にある広場が⼀望できる。向かいの棟には、再婚した夫・⼆郎(永山絢斗)の両親が住んでいる。小さな問題を抱えつつも、愛する夫と愛する息子・敬太とのかけがえのない幸せな日々。
 しかし、結婚して1年が経とうとするある日、夫婦を悲しい出来事が襲う。哀しみに打ち沈む妙⼦の前に⼀⼈の男が現れる。失踪した前の夫であり敬太の父親でもあるパク(砂田アトム)だった。再会を機に、ろう者であるパクの身の周りの世話をするようになる妙子。
 一方、⼆郎は以前付き合っていた山崎(山崎紘菜)と会っていた。哀しみの先で、妙⼦はどんな「愛」を選択するのか、どんな「人生」を選択するのか…。

・主な登場人物

・大沢妙子(木村文乃)
 本作の主人公。現夫の二郎と、元夫の息子の敬太との集合住宅にて3人で暮らします。ホームレス支援を行うNPO勤務。

・大沢⼆郎(永山絢斗)
 妙子の現夫。市役所の福祉課勤務。妙子とは職場結婚。

・大沢敬太(嶋田鉄太)
 妙子と前夫の息子。オセロが得意で、腕前は大会で優勝するほどの実力。新しい父の二郎にも懐きます。

・パク・シンジ(砂田アトム)
 妙子の前夫で敬太の父。韓国籍でろうあ者。妙子とは手話で会話します。

・大沢誠(田口トモロヲ)
 二郎の父で妙子の義父。妙子と敬太の境遇故に、息子との結婚を認めていません。息子とは同じ職場の勤務。

 ・大沢明恵(神野三鈴)
 二郎の父で妙子の義母。妙子と敬太には優しく接するものの、本心では「実の孫」を期待しています。

・山崎理佐(山崎紘菜)
 二郎の職場の後輩。実は元カノ。

1. ショッキングなシーンから始まるので、人によっては閲覧注意。

 本作、ポスターからは予想出来ないほど、ショッキングなシーンから始まるので、人によっては閲覧注意です。(予告編では推測は出来ますが。)

 物語序盤に、妙子の息子の敬太が「事故死」します。両親からプレゼントにもらった飛行機の玩具を浴室で遊んでいたときに、浴槽の縁から落ちて、浴槽内に転落します。そのとき、運悪く浴槽の水を抜いていなかったことで溺れ、加えてパーティー中で発見が遅れたことで死亡します。
 ここ、かなりショッキングでリアルなので、該当する遺族の方や心臓の弱い方は閲覧注意です。(血液やグロい遺体のシーンはありませんが、衝撃音と泡の音がキツかったです…)

 その後の警察の取り調べ・検視室での医者とのやり取り・葬式・息子の幻覚・嘔吐・フラッシュバックなど、かなり辛いシーンが続きます。ショックで自宅の風呂で入浴できなくなった妙子は、二郎と共に、暫く義両親の家の風呂を借りることになります。

 息子が亡くなってからの家の様子もリアルでした。石が乗ったままのオセロのボード(途中で試合を止めたので)、掛けてある服や帽子・大会のトロフィー・お風呂場のあいうえお表・柱に刻まれた身長計測の後が残っているのは本当に切なかったです。
 ただ、一つ気になったのは、服はフリマで売ったのでしょうか?(妙子が大量の服をフリマに出すシーンがあったことから。)もう見たくないから?いや、服は息子のものだけではないかもしれませんが。

2. 登場人物達がかなり、「屈折」しているので、イライラする人と、共感できる人で分かれそう。

 本作は悲しい出来事をきっかけに登場人物達の「本性」が表れ、それぞれに影響を及ぼします。彼らはかなり「屈折」しているので、イライラする人と、共感できる人で分かれると思います。(申し訳ございませんが、私は前者でした。)
 まず、大沢夫婦ですが、二人の絆が壊れそうになっているのを良いことに、平然と他人と「一線を超えようと」していて、とにかく腹が立ちました。(最初は彼らが気の毒だと思ったものの、「本性」が見えてくると、5分おきに、「はぁ~?」、「ありえない!」と言葉が連発しそうになりました。)
 また、大沢夫婦以外の登場人物も、行動原理が滅茶苦茶すぎて、てんでついていけませんでした。こうなるのって、結局、こうなるのって、登場人物達のバックグラウンドがわからず、情報量不足のまま話が進行するからなんですよね。そのせいか、登場人物達に魅力を感じませんでした。
 一番ビックリなのは、ラスト、散々二郎を振り回した主人公が平然と帰宅し、その後に帰宅した二郎と、いつも通り「ただいま」と「おかえり」の挨拶を交わすところです。こんな妻を夫は赦すの?もはや、この人達が人間に見えませんでした。

 以上、登場人物の魅力が今一つなせいか、俳優の演技も印象に残りませんでした。
 主人公の木村文乃さん、表情や演技が硬いです。息子を亡くす前と後で、あまり変化が感じられませんでした。唯一、葬式にてパクにビンタされて泣き崩れたときがハッキリと感情が表に出たように感じました。
 後は、永山絢斗さんの横顔がお兄さんの永山瑛太さんにそっくりだな、まぁ兄弟だしなと思ったくらいですね。
 唯一、敬太役の嶋田鉄太くんの演技は良かったです。可愛かったし、3人家族のときの両親からの愛情を受けている様子は伝わってきました。妙子はオセロに付き合って、才能を伸ばそうとしていたし、二郎も不器用ながら散歩に行ったり遊んだりして、絆を深めていたのが良かったです。犬を触って笑顔でいるときの動画は泣きそうになりました。

3. いらない要素、中途半端な伏線が多すぎて、肝心のストーリーの芯がグニャグニャしてる。

 本作は、子供の死・家庭不和・貧困・ろう・不倫・在留外国人問題など、色んな要素を詰め込んでいる割には、肝心のストーリーの芯がグニャグニャなので、何がしたいのかわからない作品でした。上記の要素も、どれも中途半端な伏線で、問題に対する回答として不誠実だと感じました。以降、私がおかしいと感じた点を述べます。

・序盤のサプライズ演出
 敬太の大会優勝祝いと大沢部長の誕生日祝い、同じ日だったのかもしれませんが、団地前の公園広場であんな演出しますかね?共感性羞恥じみてるし、上司のお子さんにそこまでするかなぁ。(敬太が新聞記事に載るくらい有名人だったとしても。)作中では、上司の誠が仕事で後輩社員にどう接していたかが描かれてないので、ここは疑問でした。
 それに、山崎の「暴走」も唐突で、街中にいたシスターはなんでこのサプライズに協力してくれたのか不明でした。(もしかしたら、明恵繋がりかもしれないけれど。)というか、団地で大音量でカラオケしたら、隣から苦情来ませんか?

・オセロとギフテッド
 敬太のオセロ好き、新聞記事・ネット記事・動かせない石と盤・ネット友達くらいしか活かせていません。それにしても、なんで彼はオセロに興味を持ったんだろう?また、こんなに有名人なら、彼が亡くなった後は、マスコミが連日家や幼稚園or学校に殺到して騒ぎ立てるのでは?

・義実家との確執・連れ子再婚への一方的な見方
 「お前は『中古』だ」という義父の言葉、一見妙子と敬太に優しく接するものの、「次は『本当の孫』を見せてね」という義母の言葉、どうしようもない言葉の暴力に怒りを感じました。(しかも、敬太の前で言う無神経さ)こんな両親だから、二郎は「人に向き合えない」性格になったのでは?
 また、なぜそこまでして団地の部屋にこだわるのかも不明です。義両親からは、そんなに土地や団地に愛着があるように見えませんでした。しかも、父は引っ越したとき、在職中?それとも、既に退職したんですかね?

・地震
 妙子が一人でいたときに、かなり揺れて、ガラスが割れてたのに、その後そのまま団地で暮らせているの謎です。(丁度、二郎は両親の引越し先にいました。)しかも、その後に二郎は山崎と車中で密会しています。義実家の引越し先と山崎が同郷出身というのも、あまりに出来すぎた設定でした。

・ベランダのCDと懐中電灯
 作中では、ベランダに吊るされた鳥よけのCDが反射して、妙子の居場所を伝えていたり、ろうのパクに懐中電灯の光を使って居場所を伝えたりしました。「非言語コミュニケーション」ツールの演出としては、悪くないです。

・パクの行動
 敬太の葬式で、私服で来たのは100歩譲ってしょうがないにしても、いきなり元妻にビンタ?妙子が「なぜ姿を消したの?」と理由を聞いても「わからない」の一点張り。
 「言葉にできない」のは理解できなくないけど、視聴者もわからない作りにしちゃダメでしょ。※後に、パクに関する「秘密」は判明しますが、わかるタイミングが遅すぎました。

・共依存
 両親が引っ越して空きになった家に、パクを住まわせる妙子。彼女がパクをお世話したい感情は、「夫婦・恋人」というより、「ペットと飼い主」みたい。「私がいないとあの人は駄目なの!」なんて執着は、正にダメンズ・メーカーです。

・W不倫
 この展開になるなら、ガッツリと、妙子×シンジ、二郎×山崎のベッドシーンくらい入れたら良かったのに、何だか中途半端でした。
 結局、なぜパクと妙子、二郎と妙子が結婚したのか、お互いがどこに惹かれたのかわからなかったです。しかも、二郎に至っては、敬太と血の繋がりがないからか、パクの前で「妙子との子を作らないといけない」と言う始末。(手話ではなく、発話なので、パクには聞こえていません。) 
 パクも、「敬太の死をきっかけに前の息子に会いたくなった」なんて妙子に言うかな?
 山崎は、「二人の家庭が壊れればよかった」と、不幸のヒロイン気取りが酷かったです。
 皆して、敬太の死を利用しているようにしか見えなくて、胸糞悪くなりました。

・韓国
 こんな内容なら、韓国の人達にステレオタイプでマイナスなイメージがつきそうです。こんなに虚しいK-POP『OPPA』も初めて。
 パクを「土壇場でありえない嘘をつく」、「ゆすりたかり」みたいなキャラにして、監督は韓国が嫌いなのかな?

・駆け落ち
 パクをフェリーターミナルまで見送るシーン、妙子はいつ自分のパスポートを持ってたの?滞在費捻出するのに、そんなにお金持ってた?クレジットカードで引き出したとか?そして、その間の仕事はどうした?

・CODA
 実は、パクは妙子と結婚する前に韓国にて日本人女性(彼と同じくろう)と結婚し、息子を設けていました。(この息子は健聴者、所謂CODA)しかし、突如行方をくらまし、来日して妙子と結婚して敬太を設けました。
 CODAの息子、長年父親と音信不通だったのに、結婚式で泣いて受け入れるかな?ろうの元妻はシングルマザーで息子を育てたことで、元夫に会って、激怒してたけど、それが普通じゃない?結局、同じ事を繰り返していたパク。ろうとか関係なく、ただのクズ男じゃん。

・猫
 団地では普通飼えません。パク、飼えないなら拾うな。いなくなった息子のつもりか?息子にも猫にも失礼。
 妙子も、猫がベランダから逃げ出して、夫そっちのけで探しに行くの、本当に「?」しかないです。二郎がいなかったら見つからなかったじゃん。
 しかも、二郎と妙子に猫を押し付けて消えた下りは、正に二人の妻にしてきたことと一緒。

 このように、人物像も行動も滅茶苦茶なキャラばかりなのですが、監督の意図は、「人間の愚かさを受け入れることが愛だ」ということでしょうか?
 それなら、愛に対してあまりにも描写が希薄だし薄情すぎます。本当に、息子を踏み台にしているのが、とことん無理でした。

4. 既存作品と似た部分はあるが、どれもそれらを超えていない。

 本作、冷静に見ていくと、既存作品と似た部分があることに気づきます。 本作のテーマは主に4つですが、以下の作品と似ていると思いました。  
 「複雑な家族問題」は是枝裕和監督作品、「グリーフケア」は『ドライブ・マイ・カー』、『桜、ふたたびの加奈子』、「CODAの家族」は『エール!』、『コーダ あいのうた』、在留外国人の就労やVISAの話は『マイスモールランド』など、これらの作品の要素をミックスしているものの、どれも中途半端すぎて、これらの作品を超えたとは思えませんでした。

  言葉は悪いですが、本当に各々の問題に向き合いたいから入れたというより、ただ、映画祭や観客へのウケが良いから入れているとしか思えなかったです。

5. 矢野顕子さんへのリスペクトが感じられないし、本当に貴方達は「LOVE LIFE」なんですか?

 前述の通り、本作のタイトルは矢野顕子さんの同名曲です。エンドロールに流れましたが、「本当にこんな事をイメージして作られた歌なの?」と違和感を覚えました。
 曲が映画化されたパターンなら、『小さな恋のうた』や『涙そうそう』などがありますが、本作については、作中にてこの曲の印象はあまり伝わりませんでした。

 作品のメッセージとしては、「痛みを伴わない教訓には意味がない」を伝えたいのはわかりますが、如何せん作りがお粗末すぎます。作中にて、「目を見れないのは、相手に向き合えてないから」という言葉がありましたが、結局大沢夫婦は、何もぶつかってないし、成長もしてないと思います。ただの「独り相撲からの自己完結」でした。

6. 映画祭出品作品ではあるものの、話題にならないのがわかる。

 本作は、ベネチア国際映画祭のコンペティション部門で上映され、絶賛されたそうですが、そこまで話題になる作品だとは思いませんでした。
 基本的に8割団地、残りは団地周辺と職場と二郎の故郷のどこかの山みたいな感じだったので、あまり予算がかかってないように思います。ちなみに、韓国のシーンは本当に韓国でロケしたのでしょうか?

 後、本作の試みとして、全編字幕上映ではあったものの、それも良かったかと聞かれれば微妙ですね。

 最後に言うなら、敬太が本当に気の毒としか言えません。大人達の自己弁護に一方的に利用されて。

 やはり、私には、子供が亡くなる作品、キャラがメソメソしているだけのメロドラマ作品は本当に合わないと実感しました。

 余談ですが、タイトルが某アニメと似ているため、間違える人がいそうです。

出典: 
・映画「LOVE LIFE」公式サイト


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