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映画「ひみつのなっちゃん。」感想

 一言で、オネエさん方による笑いあり涙ありの緩々ロードムービーコメディーです。ポスターや予告からのインパクトは大でしたが、B級故に賛否両論ではあります。ただ、所々光る点もあり、嵌る人は嵌る作品だとも思いました。

評価「C」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。

 本作は、田中和次朗監督による「B級シュール・ハートフル・ギャグコメディー映画」です。田中監督は、短編映画の自主制作や劇団への戯曲提供を経て、2011年連続テレビアニメ「TIGER & BUNNY」第5話脚本(共同執筆)を担当されました。そして本作で、初監督かつ完全オリジナル脚本での商業映画デビューとなりました。

 また、滝藤賢一さん・渡部秀さん・前野朋哉さんがドラァグクイーンを演じており、ポスターや予告編から感じたインパクトの大きさから話題になりました。

・主なあらすじ

 ある夏の夜、新宿二丁目で食事処を営んでいたママの「なっちゃん」が突然亡くなりました。つまらない冗談を言っては「笑いなさいよ!」と一人でツッコミを入れていたなっちゃん。
 その店で働くモリリンはドラァグクイーン仲間のバージンとズブ子を呼び出します。しかし、徹底した「秘密主義者」故に、自分の過去を決して明かさなかったなっちゃん。トリオはなっちゃんが家族に「オネエ」であることをカミングアウトしていないであろうと予想し、その証拠を隠すため、自宅を特定し、侵入してしまいます。
 しかし、あろうことかなっちゃんの母・恵子と出くわしたトリオ。何とかその場を取り繕いますが、なんと彼女から岐阜県郡上市の実家で行われる葬儀に誘われることとなりました。
 そこでトリオは、なっちゃんの「ひみつ」を隠し通すため、「普通のおじさん」に扮し、一路郡上八幡へ向かうことになりますが…。

・主な登場人物

・ドラァグクイーントリオ

・バージン / 坂下純 演 - 滝藤賢一
ドラァグクイーン①。普段は化粧品会社勤務の経理で、夜だけドラァグクイーンに「変身」します。なっちゃんの古くからの友人で、突然の死に動揺しつつも、何とか見送りたいとアレコレ手を尽くします。

・モリリン / 石野守 演 - 渡部秀
ドラァグクイーン②。なっちゃんが営む新宿二丁目の食事処の店子。トリオの中では最年少です。

・ズブ子 / 沼田治彦 演 - 前野朋哉
ドラァグクイーン③。人気オネエ系タレントでメディアには引っ張りだこです。恋愛体質で「彼氏募集中」ですが振られることが多く、作中でもその度に大騒ぎします。

・なっちゃん 演 - カンニング竹山
新宿二丁目で食事処を営むママ。本作のタイトルだけど故人。徹底した秘密主義故に、誰もその過去を知りません。

・並木恵子 演 - 松原智恵子
なっちゃんの母。岐阜で執り行われる息子の葬儀に参列して欲しいとバージンたちにお願いします。

・山田茂典 演 - 豊本明長(東京03)
バージンがかつて踊っていたクラブのママ。バージンの良き相談相手です。

・内藤和彦 演 - 本多力 葬儀屋。

・運ちゃん 演 - 岩永洋昭 
モリリンが旅の途中で出会うトラック運転手。ガチムチで恐らく「男色家」です。

・スーパーの店員 演 - 永田薫(MAG!C☆PRINCE)旅の途中に寄ったスーパーにいた店員。彼氏に振られたズブ子が恋に落ちます。

・坪井仁 演 - 菅原大吉
郡上八幡の旅館の店主。森で迷子になったズブ子を助けます。

・坪井博子 演 - 市ノ瀬アオ(821)
旅館の店主の孫。トリオに踊って欲しいとお願いします。

・下田信之介 演 - 本田博太郎
新宿二丁目で伝説となっている謎の人物。なっちゃんの過去を知っています。

1. 人生には「突然の終わり」もあるけれど、求めればいつだって出会いと心を動かすものがある。

 本作は、トリオの先輩であるなっちゃんが「突然死」するという衝撃展開から始まります。
 人生って、あの時会ったのが最後で、次が「突然の終わり」になってしまうことがあります。お別れは悲しいけれど、生きている人が亡くなった人にできることは、「思い出を心に残しつつ、しみじみと送り出すこと」かもしれません。

 本作では、紆余曲折を経てトリオが「なっちゃんの最期のショー(お葬式)」に出席します。今まではママとしてのなっちゃんしか知らなかった彼ら、でもそこから一歩踏み出すことで、彼らは新しい人々と出会い、出来事に心を動かされたのです。

 生前、なっちゃんはトリオに「どんなに着飾っても、その人の世界観は内面から滲み出るものがある」と話していたとのこと。この言葉が特に心に響きました。これは、童話やディズニー映画のようなメッセージではありますが、本作は、この「内面から滲み出る美しさ」を描いていたと思います。

 また、『そばかす』や『ケイコ目を澄ませて』のように、人の日常を切り取ったエッセイ風、ドキュメンタリー風作品故に、全てが語られることはないけれど、前向きな終わり方だと思いました。鑑賞後はジワジワと心温まりました。

2. 2020年代の「LGBTQ+作品」としては、まぁまぁ見られる。

 まず本作は、ドラァグクイーントリオが主人公ということもあり、所謂「LGBTQ+作品」ではあります。
 3人のドラァグクイーンを描いた映画というと、『プリシラ』(94) 、『3人のエンジェル』(95)がありますが、本作はそれらの要素を引き継ぎつつも、「LGBTQ+」に対する人々の意識や社会とマイノリティの関係性を変化させた作品となっていました。
 実は、鑑賞前は「当事者への差別意識が助長されるのでは?」と危惧していたのですが、実際はそこは無かったと思います。所謂、「オネエだから差別される、世間に弾かれる」みたいなシーンはなかったです。「共感性羞恥的」なシーンはやや多めでしたが、観て不快になる作品ではなかったです。鑑賞中も、周囲からクスクス笑い声は聞こえていたし、私も笑いました(笑)。

 一方で、トリオが話していたように、「バレたくない、TPOでは隠さなきゃ」みたいな所はあるのかもしれません。例えば、バージンが民宿の主人に「変だったでしょ?」と聞いたことからも、劇中以外では彼女たちは現実と同じく差別をかなり受けている事が伺えます。
 ただ、本作ではそこは敢えて描いていません。旅先で受け入れてもらえた事で、バージンが「自分の心に最後に気付く」という事に繋がったのではないかと思いました。

 また、ドタバタコメディーな作風は『銀魂』・『キサラギ』・『矢島美容室』を1000倍薄めたような感じでした。映画ではないけれど、Queenの『I Want To Break Free』のMV感もありました(笑)。
 そして、葬式出席のためトリオが喪服に着替え、グラサンを付けたところは、『メン・イン・ブラック』みたいでした(笑)

3. ドラァグクイーントリオが魅力的だし、俳優さん方が上手い。

 本作は、ドラァグクイーントリオの個性がそれぞれ違って魅力的でした。

 バージンは一番のしっかり者でトリオのまとめ役です。普段は化粧品会社の経理でオネエ口調ですが、女性社員と仲が良く、旅のコースについて色んな意見をもらいます。
 それにしても、滝藤さんは足長いし、口調も振る舞い方も、レノアリセットの「ピンシャキ〜シワ伸ばし〜」のイメージだったのには笑いました。本作が映画初主演だったのは意外でした。

 モリリンはトリオの最年少で、なっちゃんからも可愛がられていた弟キャラです。可愛いけどたまに空気読めない性格でした。幼少期から「性自認」を自覚しており、母親の口紅をつけたことがあったり、一方で父親からは「男なら強くなれ」と、無理矢理空手を習わされたり。その気持ちはわかるけど、でもそうはなれなかった心の痛みはズシッときました。

 ズブ子は、IKKOさんのようなオネエタレントで、「100万回〜」が口癖でした。売れっ子故に、旅先でも滅茶苦茶声をかけられます。一方で、惚れっぽさから二人を振り回した所には少々イラッとしました。それでも旅先でファンサービスを欠かさなかったり、紆余曲折を経て二人を旅館の主人に引き合わせたり、実は物語をどんどん引っ張っていたのは彼女だったのかもしれません。
 このように、トリオを見ていると、『こういう人いそう!』と思いましたし、他の作品に出てる時とは全く違っているので、俳優さん達の凄さを感じました。ちなみに、脇毛はガッツリでした(笑)

 そして、普段は個性が強く、それぞれ違った生き方をしているトリオでしたが、彼らを繋いでくれてたなっちゃんの存在は大きかったんだなぁと感じました。

 後は、旅の途中に出会う運ちゃんやスーパーの店員など、ウインクが上手い個性強すぎるキャラも印象に残りました。

4. 郡上八幡に行ってみたくなる。

 本作は、岐阜県の郡上八幡が舞台でした。自然や街の雰囲気がとても良く、岐阜県郡上八幡や郡上踊りの良さは伝わると思いました。

5. なっちゃんのお母さん目線で考えると、切ない話だと思う。

 本作、基本はコメディーですが、なっちゃんのお母さんからすれば、切ない話だと思います。若いうちに上京して長らく一緒に暮らしていなかった息子に、突然先立たれてしまったのですから。

 葬式にて、トリオは感極まってなっちゃんの棺に縋りついてしまい、ウッカリご遺体を外に出してしまいました。その時、「なっちゃんがスカートを履いていた」ことが親族にバレてしまい、一同皆沈黙、冷や汗ダラダラに。
 火葬場の待ち時間で必死で謝るトリオにお母さんは「大丈夫ですよ」と伝え、「でも私があの子のことに『気づいていた』ことは秘密にしてね」からの内緒のポーズ、このシーンにはグッときました。

6. 想像していた作品とは良くも悪くも「大分違った」かな。

 本作、私は観て良かったですが、一方で「イマイチ」いう意見にも同意できる点はあります。
 大手レビューサイトの評価は3.0代と「賛否両論」でしたが、これはポスターや宣伝と良くも悪くも「違った」と感じた方が多かったからだと思います。しかし、「ボロクソに駄目」という酷さでもないです。

 まず、ポスターはドラァグクイーントリオがキラキラした衣装を着て写っているのですが、実際は「ドラァグクイーン」というよりも、メイクしていない、普段着の「男性」トリオのユルユルロードムービーでした。

 また、踊りのシーンは序盤のバージンと、中盤の旅館でのモリリンとズブ子だけだったので、もっと見たかったです。それこそ、エンドロールに、ポスターにあったようなトリオの踊りや『その後』が描かれた後日譚を流せば最高でした。

7. 「B級」故の粗さやおバカ展開は目立つので、そこを楽しめるかどうかにかかっている。

 本作、基本はコメディーなので、笑えることは笑えるのですが、一方でデビュー作ゆえの「粗さ」は目立っていました。

 まず、作風は「B級」なので、過度な期待はNGですね。所謂、ミニシアターでジワジワと受けてくる作品だと思います。

 また、笑いの質も、大分人を選びますね。前述より、「共感性羞恥的」な笑いが多いので。
 例えば、モリリンと休憩所の運ちゃんとの追いかけっこや、スーパーのお兄さんに時めくズブ子などは、最近のBLギャグ漫画にはありがちな展開でした。
 そして、夜中の野宿で熊?に追いかけられたズブ子が、朝方に猟師(旅館の主人)に助けられたのも草でした。
 さらに、前述した「葬式でバレちゃった」展開も、人によっては不快だと感じた方がいるかもしれません。

 このように、「ありえねぇだろ〜」と何度も突っ込みたくなるおバカ展開は多いのですが、これらを面白いと思えるかが、本作を楽しむコツだと思います。

8. なっちゃんとの思い出や関係性をもっと観たかった。

 本作、トリオがなっちゃんを慕っていることは節々でわかるのですが、一方でなっちゃんは飽くまでも「故人」の立ち位置で、思い出としか語られなあので、視聴者にはその存在感は今一つ伝わらなかったように思います。
 もし「生前のなっちゃんのシーン」があれば、もっとトリオに感情移入出来たかもしれません。カンニング竹山さんのドラァグクイーン、是非見てみたかったです(笑)。

9. なっちゃんを見送ったことで、バージンは「一歩踏み出せた」のかもしれない。

 主人公のバージンは、家では踊っているものの、外では踊りをやめてしまい、皆には「引退」宣言しています。この理由は、作中では明示されませんが、恐らく歳を重ね老いていく自分がもう人を魅了するようなダンスが出来ないかもしれない、また自分を曝け出すことを「恥」と捉えてわきまえるか、「美」と捉えて誇るかという点で迷いが生じてしまったのかもしれません。

 作中では、なっちゃんにもらった「みにくい(見にくい)コンパクトミラー」を何度も覗きこむ様子からも、自分の心に迷いがあることがわかります。しかし、それはズブ子と揉み合いになって割れてしまいました。
 それでも、葬式では自分をさらけ出しお別れを言いました。ご遺体には大変なことをしてしまったけれど、最後に遺影の前に割れたコンパクトミラーを置いたことで、なっちゃんとの思い出や自分の心のモヤモヤを昇華したのかなと思います。
 バージンは旅館では踊らなかったけども、最後に郡上踊りに加わったことで、踊りに対する心のストッパーが「外れた」のかもしれません。

10. 長い付き合いでも、「実は知らない」ことは多いかもね。

 本作のなっちゃんは徹底した秘密主義でした。しかし、私達に置き換えても、長い付き合いでも「実は知らない」ことは多いかもしれないし、「自分の外側と内側」の違いは誰にでもあるものだと思います。
 また、地元ではなく、SNSやコミュニティで繋がっている友人って、実は本名や住所などの個人情報を知らないことも多いですよね。

 前述より、本作の評価が割れたのは、予告編やポスターのイメージと、本編にギャップがあったからだと思います。それでも、私が観たシアターではパンフレットは完売していたし、平日でもそこそこ客はいたので、注目度は高かったのかもしれません。

 最後に、渋谷すばるさんの歌『ないしょダンス』も良かったです。元々、ジャニーズでも「アウトロー」な立ち位置だった渋谷さん、独立されてから益々その勢いが増してます。

出典:

・映画「ひみつのなっちゃん。」感想

https://himitsuno-nacchan.com/

※ヘッダーは公式サイトから引用。


・映画「ひみつのなっちゃん。」Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%81%B2%E3%81%BF%E3%81%A4%E3%81%AE%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%80%82





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