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出版は、フラットにドライにコツコツと

専業でもないのに、高スパン(2.5年)で2冊の本を出す機会に恵まれたからか、飲み会なんかの場で、「どうやって出版にこぎつけたの?」と聞かれることが増えた。

みんな、そんなに本出したいんやなぁ~。しゃべれるなら、別に出す必要ないのに(私はしゃべれないからその代わりに書いている)。印税なんてしれてるのに。
と、喉まで出ているがそれは封印し、せっかく聞いてもらっているのでいつも伝えれるありったけを話す。が、その話で終始してしまう時間がもったいないので(それならもっと他のことを話したい)、誰かの役に立つかもしれないわたしの出版との向き合い方を、ここに記しておこうと思います。

1.他の仕事よりえこひいきしない
まず、1冊目の『もし京都が東京だったらマップ』(以降1冊目)は、8万字を2ヶ月で書いた。これは、必ずいただける初刷りの印税を計算し、月収で割ったら2ヶ月以上かけたらダメだな。と逆算したからだ。
「本を書くことはマラソンと一緒」と、当時の優しい編集者さんに言われたのがまさにそうで、飛ばしすぎてもダメだし、毎日コツコツ、スケジュールを決めて書くことが必要。私は、2ヶ月間は定期の管理以外の積極的な仕事は削り、がっと書くことに集中した。
本を書くという珍しい仕事に浮足立って、えこひいきしてはいけない。なぜなら、他の仕事にはオーナーさんや入居者さんという人が待っているから。なんなら、執筆は自分の責任範囲内のことなので、他の仕事より後回しなくらいだ。でも、コツコツ進めないと終わらない。
結果、まさかの増刷したので、その分がボーナスになったのは嬉しい誤算だった。

2冊目の『不動産プランナー流建築リノベーション』(以降2冊目)の時は、10万字を4ヶ月で書いた。こちらは本業の本なので少し慎重に書き進めた。事例ベースの章立てなので、オーナーさんや関係者に配慮して内容を書き進めたということもある。

2.仕事が舞い込むために書く
素人の印税なんて、たかが知れている。誰でも本を出せるようになったこの時代、「本を出したらすごい人」という昭和的価値観も崩れているだろう。どう考えても、労力に対する印税換算ではコスパが悪い。だから、専業の作家でない素人の私たちは、印税以上の仕事をいただくために本を書くしかないのだ。

1冊目の一見本業と関係なさそうな地図本でも、たくさん仕事の相談をいただいた。しかも、これまでになかった京都の老舗企業から。自分の考え方が歴史ある方々に認められた気がして、この展開は想定外だった。
これに味をしめて、本業ガッツリの2冊目では、仕事の依頼が来やすいように、つまり、依頼してもらいたい地主さんや老舗企業の社長に読んでもらいやすいように工夫した。
たとえば、注釈を使わず文中で分かりやすい言葉で説明したり、表紙も今っぽいけどオシャレすぎない(オシャレすぎると依頼してもらいたいおじさま方が買いづらい)ようにデザインを重ねてもらった。
読む人がいてはじめて本が成立する。だから、売れないと意味がない。著者も売れる本をつくる努力をする責任がある。

3.無駄なプライドを捨てる
2ヶ月・4ヶ月で書くのすら長いと私は感じていたのだが、異例の早さだったらしい。建築専門書の2冊目の出版社に聞くと、なんでも数年かけて書く建築関係者も多いと聞く。私は書くことは全く苦痛ではなかったが、自分マターな状態が年単位で続くことが苦痛すぎて耐えれない。
たしかに、終わりがない作業なので、書けば書くほど追記したくなる。私の場合、まだまだ業界では若く、何も成し遂げてもいないので、これを2200円も払って買う人がいるのだろうかという不安がよぎり、実は全てを書き終えて出版するか迷ってしまった(笑)。書き終えてから迷う人は珍しいみたいだが、結局、今の私はこれ以上これ以下でもないから仕方がない、と割り切ることで納得できた。
建築家はプライド高めなので、なかなか時間がかかるようだ。不動産プランナーにプライドは無いので、今回道半ばで出版しても、また書きたくなったら出版すればいいと思っている。

4.自己表現の手段は、人それぞれ得意なもので
本を出すこと・講演で話すこと・絵に描くこと。私の中ではどれも同じ表現手段であって、優劣はない。人前で話すことはそもそも苦手で、今でこそマシになったが、好きでもうまくもなく訓練だ。一方で、書く分には永遠に書ける。
書くことや描くことに長けている人は、そういう人が多いと思う。言葉で表現できない分、幼いころから一番得意な方法を見つけて伸ばしてきたのだ。
私の場合、小学生の夏休みは、読書感想文で選ばれるのが分かってるから毎年プレッシャーと戦い、書けるまで何冊も本を読んできた。大学では、講演会を本にまとめて自費出版で仲間と販売。大人になってからも、人の人生に興味があり岸政彦さんに生活史の書き方を習ったり、1冊目で表現と語彙力の無さを痛感したので、小説の学校にも通った。天才でもないので、得意な表現手段をアップデートするために、日々努力を重ねてきた。
ビジネス書のほとんどはゴーストライターが書いているといわれているが、他人が書いた本かどうかは、読めば私でも分かる。ビジネス書を出せるくらいの人なら、そのつるっとしすぎた言葉が並べられた本よりも、自分の肉声で言葉で伝えた方が、よっぽと人の心を打つことができるだろう。
本を出すことが決して高尚なことではなくて、いろんな表現方法が可能なこんな便利な時代なんだから、人それぞれ、得意なもので自分を表現すればいいのにと思う。

5.出版と建築はプロセスが似ている
2冊出して確信したこととして、出版と建築はプロセスが似ていると思っている。

どちらも作家やプレーヤーが目立つが、決して彼らだけではなく、資本を持つ人、裏で支える人、一緒にものを作る人、利用してくれる人がいないと成立しない。そして、読者や使い手に届けることがゴールであって、出版や建築は手段に過ぎない。アーティスト寄りの作家や建築家もいると思うが、それでも時代を適切に詠まない限り、使ってくれる人はいないという点も近しい。つまり、どちらもグレーの部分に編集力が必要とされている。
あと、私は建築より出版の方が気の合う人が多く、純粋に一緒に仕事するのが楽しいというのもあります。

6.企画に合う出版社選び
本が出せたらどこでもいいわけではない。出版社によって千差万別、得意なことも著者に求めるものも違います。
業界研究をした上で、自分の本の企画書を面白がってくれるところに持って行く。出版社から依頼があっても軽々しく受けず、自分の企画と見合うか、自己判断する事が大事だと思います。
ちなみに私は、とある出版社から依頼いただき、その出版社から出したい気持ちは超あるのですが、相応しい内容が自分の中にまだないので、その旨を先方にも伝えて待ってもらっている状態です。
出版社の編集会議に参加した事がありますが、皆さんの仕事同様、編集者もネタに困っています。だから、これは売れそうと自信があれば、私にうじうじ聞いている間に、さっさと企画書を持っていけばいいと思います。失うものはプライド以外何もありません。


7.どの棚に置かれたいかをイメージ
1冊目は、京都では入り口付近にドドンと京都本コーナーがあり、そこに置いてもらえていた(おかげでいまだに平積みのところも)。一方2冊目は、建築棚に置かれ、一般の人の目には止まりにくい。それでも、投資棚に置かれないように(投資棚に置かれても売れなさそう)、「建築リノベーション」とタイトルにつけ、無理やり不動産から引き離した。
正直読まれてナンボだと思っているので、投資でも良かった気がしないでもないが…本屋に行って置かれる棚をイメージすることが大事。どこに置かれたいかで、次何の本を出したいか考えています。

1冊目を出したのが30歳の時だったので、2年づつ出せたら、40歳で5冊だな、と思っていたが、それではずっと本のことを考えないといけなくなり他が進まないので、さっさと諦めた。

出版は、フラットにドライにコツコツと。書きたいときにまた出せるように、書く力を養いつつ、魅力的なネタのある人生を過ごしたい。


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