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有楽町で獣を喰らう

友人の競輪選手と有楽町で酒を喰らう。ガード下の小路を幾重にも曲がった果てにあるその焼き鳥屋は、いまにも崩れ落ちそうな廃屋風情。徹夜明けでハイテンションの俺と小田原競輪最終日で一着を勝ちとったばかりの友人は揚々と席につく。

しかし、供された焼き鳥を食って声を失う。そこはかとなく漂う獣の臭い。ひょっとしてこれは鳥とは違う生き物ではないか。つづいてレバーもどきの肉を食う。鳥ではない、と互いに断言。やはり獣か?

ビールに飽きたので熱燗を発注。店のおやじは受注するやいなやカウンターの下から紙パックの菊正ポンを取出して開栓。やかんに直接ぐびぐびと注ぎ入れ、火にかける。やがてやかんがしゅんしゅんと音を立てて沸騰する。おやじは無視して獣を焼く。気化し続ける菊正ポン。日本酒を気化させ、独特のうまみを引き出す新しい調理法かもしれぬぞ、と俺は友人をなだめる。

おやじが煮えたぎるやかんをもって、俺たちのテーブルに来訪。コップを置くと、菊正ポンをつぐ。コップの中で沸騰した菊正ポンが踊り狂う。ひと口で唇が火傷。しばし、湯気を見つめて沈黙。

獣に飽きたので、おしんこを発注。出てきた白菜の漬け物は、バースディケーキのように大きく丸く施されラーメンどんぶりに盛られている。この量は何ゆえに?箸で入刀して口に運ぶと、口内が瞬時に発酵。あわてて菊正ポンを注入すると、口内の発酵汁と菊正ポンが絶妙にブレンドされ、鼻孔へとさかのぼる。激しくむせる。

店内を見渡すと、脂まみれのダイヤル式黒電話を発見。これは使えるのだろうか、おやじに尋ねると、北海道までつながる上等品と真顔で自慢。トランシーバーじゃないんだから、そりゃつながりますよと返すが、おやじは「昭和枯れすすき」を口づさみながら獣焼きに夢中。負けた。獣から立ち昇るパープル・ヘイズが、ヘンドリックスなブラウン運動を繰り返しながら戸外へと消えていった。


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