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バンドっぽいピアノトリオ(後編)

※本記事は「バンドっぽいピアノトリオ(前編)」の続きです

自分の好きなピアノトリオの推し曲を集めたプレイリストを、初めて作ってみた。プレイリストの名前は、”Bandish piano trios”、つまり「バンドっぽいピアノトリオ」である(全20曲/約2時間)。

この記事では、自分の作ったプレイリスト「”Bandish piano trios"」の曲を1曲ずつ紹介している。是非プレイリストを聞きながら、読んでもらえたら嬉しい。プレイリストは下記。

それでは後編、スタート。

11. The Bad Plus "Pound For Pound"

2度目の登場、The Bad Plus(前編の#7を参照のこと)。この曲はBPM60くらいのかなりスローなテンポにもかかわらず、バラードに感じない。ピアノがひたすらに何度も同じフレーズを繰り返しながら、どんどんデフォルメしていくのだが、楽曲として崩壊することはなくむしろ壮大になっていく。これに一役買っているのが、ドラマーのDavid King。フリージャズ的な要素が強く、時に自由に叩きすぎてしまう結果、楽曲が前衛的になりすぎてしまうこともあるのだが、この曲ではそのバランスが非常にうまくいっていて、インストにもかかわらずドラムが歌っているように聞こえると思う。

ちなみに、前編で紹介した際にピアニストがスキンヘッドという話をしたが、実はドラマーのDavidもスキンヘッドである。3人中2人が謎のスキンヘッド被りというなかなか意味不明なバンドである。

12. Phronesis "Herne Hill"

イギリス、オランダ、スウェーデン出身の3人によるバンド。読み方は、フロネセス。意味は「実践的な知」でアリストテレスの提唱した概念に由来している。その名の通り、楽曲は緻密な構成で、小難しいものが多い。ただテクニックはピカイチで、このプレイリストの中でも一番メンバー同士での掛け合いが激しいように思う。この曲も、目まぐるしくリズムが入れ替わっていてキメが多い攻めまくりの構成なのだが、合間合間で挿入されるピアノのリフが、いちいちかっこいい。この曲はライブ映像も公式から発表されているが、綺麗かつストイックにプレイヤーを映しており、5分弱があっという間である。

13. European Jazz Trio "Dancing Queen"

オランダ出身の3人組のトリオ。本曲は言わずとしれたABBAのカバーである。自分はジャズを聞き始めたころに一度このバンドにハマったのだが、その後少し聞かなくなった時期があった。理由は単純で楽曲やバンドの姿勢があまりにもキャッチーすぎるからだ(なんならクラシックや、日本の曲をジャズアレンジしていたりして、ちょっとズルイと思っていた)。でも幾多のメンバー交代を乗り越えて、現メンバーになってからはもう約20年くらいキャッチーかつ軽やかな演奏を続けているのだから、今は素晴らしいバンドだと思っている。

14. Esbjörn Svensson Trio "Dolorens in a Shoestand"

本プレイリスト3回目の登場、E.S.T.。残念ながら、ライブを聴くことは最早叶わない。2008年にピアニストのEsbjörnが、スキューバダイビング中の不慮の事故によって亡くなってしまったからだ。バンドというものは、メンバーの不祥事による活動休止や不仲による解散などによって終焉を迎えてしまうことが、ある種の様式美になっているが、自分たちでバンドを休止・解散することを決められるバンドはとても幸せなのだと思う。

今回、取り上げたこの曲は、紛れもないダンスミュージックである。E.S.T.がただのピアノトリオではなく、大衆を踊らせるモンスターバンドだということを証明していると思う。もし気に入った方は亡くなる前年のライブも是非ご覧いただきたい。5分40秒くらいからドラマーが手拍子を始め、曲が終わるまで、会場全体で大拍手が続くという異常な盛り上がり方は圧巻である。

15. Avishai Cohen Trio "Eleven Wives"

リーダーのアビシャイ・コーエンは、イスラエル出身のベーシスト。民族音楽の香りがする複雑難解な変拍子をスリリングに操る楽曲が多く、この曲はまさにその代名詞。そんなバンドのリズムを支えるのは、ドラムのMark Guiliana(マーク・ジュリアーナ)、ピアノがShai Maestro(シャイ・マエストロ)。2人とも現代のジャズシーンを力強く牽引するトッププレイヤーでまさに天才3人が揃った奇跡のようなバンドなのだが、残念ながらこの曲が収録されているアルバムが出た後、メンバーは変わってしまった。(Trio自体はメンバーを何度か変更しながら、現在も活動中。)
尚、同じくイスラエル出身で同姓同名のトランペッターもいる。そのためジャズファンと話す時は「ベースの方のアビシャイ」と言うと、ちょっとわかっているヤツ感を出すことができるかもしれない。保証はしない。

16. Mammal Hands "Kandaiki"

ピアノ、ドラム、サックスという少し変わった編成のバンド。同じフレーズをくりかしながら少しずつ曲が移行させていく曲が多い。演奏は比較的淡々としているのに、展開がすごく豊かで荘厳な雰囲気が滲み出ているクールなバンドである。ちなみにピアノとサックスの二人は兄弟だったりするが、あまり似ていない。また、このバンドが所属するGONDWANA RECORDSは、英国のマンチェスターにあるレーベルで、#1のGOGOPENGUINも所属していたりする。

17. Espen Eriksen Trio "Anthem"

本プレイリスト、2度目の登場。前編の#3では、サックスをゲストに迎えた4人での演奏だったが、この曲は3人でやっている。初めて聞いた曲がこのAnthemだったのだが、非常に叙情的かつ優しい曲で思わずはっと聴き入ってしまい、それからずっとこのバンドの虜である。楽曲中のドラムのポコポコとした音は、スティックではなく手で叩いているのだが、絶妙に可愛らしく温かみのある音で曲に調和している。キャッチーなのにオリジナリティもあって、しかも無駄な音がない名バラード。

18. Neil Cowley Trio "Slims"

バンドとしては、少し#8のRémi Panossian Trioに似ていると思うが、このバンドの最も素晴らしいところは、ダイナミクス(曲の中での音量)のコントロール。ベースとドラムはロックバンドのごとく、比較的シンプルなパターンを演奏しており、その上でピアニストのNeil Cowleyがポップなメロディラインやリフを弾くのだけれど、バンド全体で盛り上げるボリュームが阿吽の呼吸で共有されているので、全然飽きがこないサウンドになっていると思う。ちなみにNeilは、あのAdeleの伴奏も経験している隠れ名プレイヤーだったりする。

19. Rymden "Homegrown"

読み方はリムデン。ノルウェーのBUGGE WESSELTOFT(ブッゲ・ヴェッセルトフト)というキーボーディストが、元E.S.T.のメンバーに声をかけて2019年に結成されたバンドである。元メンバーが二人もいる以上、もはや伝説のバンドになってしまったE.S.Tとどうしても厳しく比較されてしまうが、良い意味でE.S.Tが進化して全く違うバンドになったと思う。やはりメンバーが一人変わるだけでこんなにも変わるから、ピアノトリオという形態は面白い。まだ結成されたばかりなので、単発で終わらずに続いてほしいと思う。

20. Esbjörn Svensson Trio "Believe, Beleft, Below"

このプレイリストを作ろうと思い立った時から、この曲を最後にすることだけは決めていた。E.S.T. が2005年にロンドンで演った際のライブ音源より、最高に美しい7分24秒のバラードを堪能してほしい。

おわりに

文章を書いてみて、我ながらE.S.T.が大好きであるなぁと呆れた。偏りに満ちたプレイリストだが、1曲でも好きなバンドが見つかったら、とても嬉しい。

書くまでもなく、紹介できなかったバンドもたくさんあるし、ジャズ以外にも大好きな音楽はたくさんあるので、また別のプレイリストを作ったら、紹介記事を書いてみようと思う。お付き合いいただき、感謝。


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