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理想の恋人(ヒト)⑧


近未来に訪れるであろう、ヒトとAIが融合する世界。少し残酷で可哀想にも思いますが、ここから悲劇が始まります。嵐の前の静けさに、刹那の快楽に溺れる彼の姿をお楽しみください。悲しいほどにひたむきで、純粋な想いにも感じられて、切ない限りです。

なんか言い訳できんくらいに追い詰められた感覚になってきました。責任重大?


理想の恋人ヒト、贈ります つづきです。…



お待たせして大変申し訳ありませんでした。

ようやくお客様にこの言葉をお伝えできる日がやってきました、『理想の恋人ヒト、いよいよ贈り致します』。



ようやく待ちわびた日がやってきた。正直長かった。正直何度かこの会社のことを疑ってしまった。既に僕の口座からはモーネッド社に言われるままにほぼ全額が引き落とされていた。拠点は海外だし、詐欺行為ならきっと容易にできたことだろう。でも彼らはやり遂げてくれた。いつしか顧客対応係のワンさんの日本語まで随分と上手になっていた。アフターケアもお願いしないといけない。王さんとのお付き合いはしばらく続きそうだ。
「発送日は追ってお知らせします。到着日と時間を、東京の代理店からお客様にお伝えします。必ず自宅で直接受け取りになりますよう、お願い致します。到着後の取り扱いに関しても、追ってご連絡致します…」

僕はひとりそっと空を見上げていた。部屋の白い天井が見えるだけなのだが、僕の脳裏には帰りがけにみた、きれいな西の夕焼け空が浮かんでいた。
「もうすぐ会えるんだ。キミに。待ち望んだ出会いの日だ。」
天井の模様がやけに揺れて滲んで見えた気がした。心地の良い充実感が襲ってきて、僕のこれまでの苦労を慰めてくれた。そしてこれから訪れるであろう喜びの時を祝福してくれるようだった。

それからの僕は、ますます周りが見えなくなっていた。仕事中は口と目は言われたことにことさら丁寧に反応した。でも頭の中は理想の恋人ヒトのことでいっぱいだった。
「僕が考えに考えた名前はもう伝えた。理想の恋人ヒトも気に入ってくれている。喜んでくれて良かった。でもそれを口に出すのは、初めて言葉を交わす時がふさわしい。」

そんな風にひとり思っていたのだが、だんだん脳の興奮が過剰になっていく。自分の脳内回路が活性化していくのを、僕は自覚するようになった。頭が熱い。でもそんな時は

仕事中はまだ良いが、帰ってひとりになると、僕はじっとしてもいられず、夜は寝ようにもなかなか寝られないでいた。身体中がうずくように騒ぐのだ。脳内では僕の化身が暴れ出しているようだ。口を開けば、次から次へと溢れるように言葉がでてきた。頼まれた新規事業のアイディアも、とめどなく浮かんできてはすぐに消えて、ノートに書き写すのも大変だった。身のより所がない。いや、脳内がひどく落ち着かない。コレじゃいけない。僕は最高級の笑顔で理想の恋人ヒトを迎えるんだ。部屋の掃除もレイアウトも完璧だ。白一色で殺風景だった部屋には観葉植物が控え、座り心地の良いソファーもそろえた。あとは理想の恋人ヒト、キミだけだ。



(イラスト ふうちゃんさん)
こんなステキなイラスト、本当にありがとうございます。感謝、感謝、です。

                                                                                                         

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