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カオスな時代 ver.1~運命の出会いと夢の先

この作品はフィクションです。当時の文化慣習の風情がふんだんに表現されていますが、昭和文学作品としての観点から、敢えてそのままの様式で掲載しています。
アホらしくも愉快なボクの体験談、ささ、ごゆるりとお楽しみください。

よい子の皆さんは決してマネしないように…
先に謝っておきますが、ただのオフザケですからね。
クレームは一切受け付けておりません、です。


その夜、ボクは人気のない山間やまあいの集落にいた。というか、連れてこられた…。でも何者かに拉致された、というのは少し言い過ぎだ。「自ら好き好んでのこのこ・・・・付いていった」というのが正直な表現だろう。

どうも記憶が定かでない。クスリのたぐいを盛られた訳ではないが、ひどい衝撃を受けたせいなのだろう。ただの自己嫌悪と現実逃避の結果、ただそれだけだが、辺りを見回せば死んだような眼をしたオトコ達の群れが力なく立ち尽くしていた。そしてボク同様に打ちひしがれている…コイツら同類か…。ボクはこの状況を前に、他にできることもなくとりあえず記憶の断片を繋いでみることにした。


その日の昼前、ボクは都内某所にあるアニオタ聖地の駅前にいた。本来ならメイドカフェやショップを渡り歩き豪遊するはずだったのだが、店の前で予算不足に気づき泣く泣く撤退したところだった。悲しみに暮れ、通りをアテもなくぶらぶらとしていたのボクは、ふと広場の片隅に人混みを見かけた。群れの先には、キレイな女子が立っていた。こういう時にはボクのムダに良い視力が役に立つ。彼女は眩い笑顔を振り撒きつつ、目の前の男たちに向って何かしら説明しているようだ。

「か、可憐だ…」
出会いの予感を感じ取ったボクは、無意識のうちにその集団に紛れ込んでいた。男たちは総勢20名程で、一言で言えば冴えない、遠慮なく言えば地味で目立たない、敢えて容姿を形容するならキモオタ風の集団だった。そう言えば今日ボクは街に溶け込むようにと全身オタク風の装いをして、何の違和感もなく周囲に溶け込んでいた。…ああ、これが保護色効果か。木は森に隠せ、とは良くもいったものだ…そんなことより、彼女だ。ボクは出会いの予感に胸をときめかせ、彼女の声にひとり耳を澄ませていた。その目は爛々らんらんと彼女を直視し、まだ日の高い時分なのにその瞳孔は大きく開き異様な光をはなっていた。彼女はボクの視線に気づくと、静かに首を傾げて微笑んでくれた。風になびく黒髪、健康的な笑顔、細身なのに程よくグラマラスなボディ、すっきりした脚、その様はまるで二次元から飛び出た美少女アイドルのごとしだった。

「神よ、出会いに感謝します」
何処どこの神様だよ、そんな一人突っ込みを入れる余裕もない程に、ボクのココロは既に奪われていた。
「おー待たせしましたー、コッチでーす。」
彼女から眼が離せないまま、ボクは誘われるまま導かれるままに彼女の後をついていった。
…今にして思えば、彼女はその容姿で「オタクホイホイ」のごとく目前のオトコたちを魅了し、捕獲していく集客マシーンだったのだろう…

気づけばボクは、大型バスの座席に座り窓の外を見ていた。
「それでは皆さーん、発車しまーす。」
彼女はそのコトバと指で作ったハートマークを最後に、ボクの視界から消えていなくなった…どうやらボクはだまされでもしたのだろうか。何か買わされたりした訳でもないが、車内のどこを見渡しても彼女の姿はなかった…これからどこへと向かうのだろう。落胆と絶望のなか辺りを見渡すと、荷馬車に揺られる子牛のような不安そうな目をしたヤツも数名いた。知らんがな、アンタらの下ゴコロのせいだろ。そう言ってやりたがったが、『オマエも一緒だろ』、そう言い返されるのがオチなので黙っていることにした。その他の男たちは口を開くこともなく、ぼんやりとその目は宙を舞っていた。運転席の横では、クラスの委員長タイプのいかつい女子が何かしら必死に説明していた。でもオトコ達は聞いている風を装いながらも、胸の内は上の空のようだった。それはまるで、列をなしたセミの抜け殻がそよ風に揺られているようにすら見えた。


バスはいつしか中央高速道を降り、どこかの山道を走っているようだ。牧歌的な田園風景もやがて途絶え、バスは草木の生い茂る山道を揺れながらオトコ達の空虚な頭を揺らしていた。死んだサカナの目に何が見えるのかは知らないが、僕の目にはやがて一面に白い壁の大きな建物が映った。そしてその入口には樹齢何百年とも見える立派な木が鎮座しており、その前では白装束の一団がボク達の到着を待ち構えていた。…え、コレってヤバメの宗教勧誘じゃ…不安が胸をよぎるが、今となってはボクら哀れなオトコ達はまな板の上の魚、しかも死んだサカナの目をした魚だ。怪しげな雰囲気にあらがうこともできず、一列に並ばされると半ば強制的に歓迎の式典への参加を余儀なくされた。

御前おんまえのォ、御神木ごしんぼくにィ、祈りを、捧げェ!!!」
その掛け声に、列をなした白装束姿の数十人が一斉に踊り始めた。
『エオツラハッソ ヤノチンヤ』
『ニギハヤハッソ、カノチンヤ』

叫ぶ合いの手の意味など、誰が知っているのだろう?でもオトコ達はそのあまりの熱気に、その目に生気を取り戻していた。周囲を取り囲んだ白装束の仲間達が、一緒に踊るようにと無言の圧をかけてくる。断れば何をされるのかも分からない。オトコ達は言われるままに声をあげ、一心不乱に踊り続けた。日頃運動不足な身体はすぐに音を上げ、次第に脳が酸欠になっていった。でも踊りを止めれば、すぐさま続けるようにと圧をかけられた。…もう逃げ場などない。倒れるまで踊り尽くすまでだ…。次第に意識が遠のいていくようだ。こうして一心不乱に踊ることで神に近づこうというのは、古来より神事や儀式で用いらえた方法だ。それよりも、ボクはこれからどうなってしまうのだろう。不安なココロを覆い隠そうと辺りを見回すと、ボクの目には斜め前で踊る一人の女子の姿が目にはいった。その胸は日頃の束縛から逃れんばかりに自由を求め、白装束の前をはだけんばかりに舞い踊っていた。



イラストは、いつものふうちゃんさんです。
本当に、いつもありがとうございます。
お下品な作品にまで登場させてしまい、ホントスイマセン…


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