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「モ」チモチの木 Part II

 霜月二十日、祖父を助けるべく、「ヘッドフォンアクター」にて丘の上へと走る榎本貴音宜しく、モチモチの木を横切り、医者のところへ向かった豆太の話から早五年。モチモチの木は再開発で伐採され、ひもじく暮らしていた二人は山の権利関係で大金を獲得し、田舎なんて暮らしても仕方ねえと、東京都港区白金に一軒家を構え、ドンペリを飲んでいた。
 五年経てど、豆太は高校生であるため、ドンペリは本来飲んではいけない。しかし矍鑠かくしゃくとした祖父が盃を豆太に向かわせ、
「なあに、儂は豆太の歳には、これを毎朝飲んでから狩りに出かけたものだわい」と笑いながら薦めたから、飲まざるを得なかった。見事ドンペリにハマった豆太はすっかりアル中になり、全財産を全て使い、祖父を殺して、路上で凍死した。
 そして更に二十年後の大晦日、私は今、家のこたつに入りながら、NHKの紅白歌合戦でウタの歌唱を聴いている。
 〽新時代はこの未来だ。世界中全部、変えてしまえば、変えてしまえば。
 「ふうん」この曲を聴く度にAdoちゃんは日本のJPOPを牽引しているなと常々思う。マカロニペンシルだのカロチン社会だのは彼女のためのお膳立てだったわけね。彼女の熱唱にこたつでぬくぬく温まっている私は気圧されてしまいそうで、「変えてしまえば」の「ば」の部分でつい日テレにチャンネルを変えてしまった。でも日テレはしりすぼみになったガキ使以下のゴミ番組をこの大晦日という一年のクライマックスに垂れ流していたから、即座にNHKに切り替えた。
 〽ジャマモノ、やなものなんて消して……
 Aメロに移ったウタを聴きながら、私はこの一年のことを考えていた。噴火や戦争、ショットガン、柚葉etc...でも一番衝撃的だったのは「チェンソーマン」のアニメ化だった。藤本タツキファンから言わせると、あの全然観たこともねえくせに、YouTubeの映画の名シーン切り抜きでいっちょ前に知識をつけたような、あの所謂童貞恐竜博士みたいなスタイルでアニメに映画のオマージュを入れているのが笑止千万で、私がマキマだったら、チェンソーマンに「アニメ版チェンソーマン」の悪魔を食わせて存在していたことを掻き消したいほどだった。言いすぎかな。まあ第八話の足ピクデンジは面白かったよ。
 〽さあ行くよ、NEW WORLD。
 Adoちゃんの絶唱が始まりそうなタイミングで、また無意識に日テレに変えてしまった。
「やっちまった~」そう思いながらも、まあいいタイミングだと思って、こたつから出て冷蔵庫に向かった。そしてそこから雪見だいふくを取り出し、それを持ってこたつに駆け込んだ。こたつの上に雪見だいふくを置き、そしてリモコンを取って再びNHKに切り替えた。
 ウタはもうBメロを歌っていた。私は雪見だいふくのパッケージをペリペリめくり、中のミニ・ピッチフォークを取ってバニラアイス饅頭にダイブさせた。
「〽もーちもち、もーちもち雪見だいふく!」私はウタの歌声の最中、大声で歌い出した。これが対位法ってやつね。私は刺された饅頭を逆さにし、自重で下がっていくそれを一息に頬張った。
「やっぱり雪見だいふくは神の味Gustus Deiね」家の外はAdoちゃんの歌声に合わせてふぶいていた。それはもううっせえわだった。


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